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21/09/25 お絵描き1000本ノック!? 圧縮陳列的『略画教材』と脱力系『佐らさ集』


■9月最後の更新です。先回りしてお知らせすると、昨年、コロナで中止になった古書即売会「銀座 古書の市」は復活の兆しなく、2022年1月の開催はないものとお考えいただければ幸いです。
昨年、同人有志で実施した「古書目録福袋」の実施並びに参加については、10月にはご報告できるかと存じます。
いま少しお時間をいただけますようお願い申し上げます。

相変わらず骨太な一時資料(何のことやら…)との出会いに恵まれず、しかも、松屋かないとなると、仕入れに対する意欲はますます減退していく一方となります。一向に買う気が上向かない中で、がしかし、これは面白いんじゃないかと思って落札してきたのが『略画教材』でした。このスタイルは珍しい。どう珍しいかは以下に。
初版発行は昭和16(1941)年。著者は八木悌二で発行は大日本出版社峯文荘、配給元はこの年の5月に設立され、「日本の出版取次を独占していた国策会社」(by Wiki)である日本出版配給会社
今回入荷したのは人物篇、動物篇、器物篇、植物篇の4冊。この4篇に風景篇を加えた5篇を刊行する予定だったようですが、どうも風景篇については刊行されなかった可能性がありそうです。
「教材」という言葉がタイトルに使われ、著者が東京女子師範の先生だったことからも分かるように、例えば板書での図示や図解、例えばプリントや文集などのカットに使える図版を集めたもので、面白いのはこの図版の配置と多さにあり。B4サイズ1Pにレイアウトも流れもなくただもう闇雲に(としか思えない)詰め込むという驚異の手法です。圧縮陳列的とも云うべきこの手法で古書価÷図版数=1点あたりの単価がいくらくらいになるか計算したくなりましたが、図版点数を数えているだけで夜が明けそうなのでやめました。さらさらと描いて達者、かつまたこれだけの数を収まりよく1Pにまとめた技量もなかなかのものだと思います。
圧縮陳列の二次元ヴァージョンのようなこの形式は、物資がとぼしくなっていった戦時体制下の必然だったと見られますが、そのことがむしろこの冊子をユニークなものにする結果となったとでも云うべきでしょうか。
『人物篇』は「人体基礎練習」から男子と女子それぞれの「和装」と「洋装」、「子供」「家庭」「職業」「芸術及趣味」など片面刷13P。
『動物篇』には鳥類、魚介類、爬虫類、昆虫類を含み、『器物篇』には「文具」「家具」から「食器」「工具」あり「交通用具(=鉄道、自動車、人力車etc)」あり、また「農具」や「陸軍戦器」「海軍戦器」といった時代を写す項目多数、『
植物篇』では樹木から草花、野菜や果物まで濃やかに描き分けています。 

この4冊でおおよそ「略画」に使われそうなモチーフは網羅されているのではないかと思えるほどの、薄冊ながら内容の多彩さにぐうの音も出ない充実のシリーズでありますですはい。

■2点目は大正後期から昭和初期に手描きでえがかれた図案の手控え。
図版は和紙に墨で描かれていて、主にテキスタイルデザインや焼き物の絵付けに使われるようなタイプの図案ですが、なかには桃の節句に際して製菓メーカーがつくったノベルティのひな人形の写生なども。
薄い和紙を重ねた綴りで厚さはおよそ2cm。画像にとった図案はこの相当なページ数のなかから選んだかなりまともな作品で、あとは稚拙な図版が多いことは確か。
巻末に書き込まれているメモによれば、大正11年の約270枚を筆頭に、昭和5年の185枚まで、研鑽をつんだ効果か、確かに後半にいくほど絵がこなれていくのもなかなか興味深いところではあります。
上手い絵は黙っていても残されますが、過半がどちらかと云うと稚拙な絵ばかりのこの控えのようなものは、ともすれば簡単に捨てられてしまう運命にあります。どういう方が興味を示して下さるのか、一体何の役に立つのか実のところさっぱり予想もつかず、従って長らく売れないであろう予感しかないこの1冊ですが、どこか捨てがたい魅力あり。いま暫く命運を保つためにも次なる所有者が現れるのを待ちたいと思います。

今週の斜め読みから。長いですがお膝元からの…
https://www.chosyu-journal.jp/seijikeizai/21590?fbclid=IwAR04gZBvTYE_6drEeZzmR51WgwZ404KKjtBu1Rrad4cc6fK0CpxvaG4W-74
 

 

21/09/18 やっぱり好きな見本帖とガラス乾板


■ああでもないこうでもない がしかし ああだったのかも知れないなと くだくだしい説明を要するような手強い商材(になるかも知れないもの)と、今年はほとんど出会えていないことに気付いてちょっと心配になってきました。
日月堂はエフェメラ=紙モノで一次資料にあたるものを中心に扱う、日本ではまだ珍しいスタイルの古本屋です。 
古本屋の云うエフェメラとは、ペラ1枚もののフライヤーやチラシからDM、チケット半券、ポスター、場合によっては領収証や使用済みの証券などまでフィールドは広く、各時代のモードを描いたファッションプレートなど、ある時代の特徴を色濃く残すものを大切にします。
また、雑誌の他、パンフレットやリーフレット、プログラムや同人誌などの小冊子もエフェメラ専門店の扱い範囲であり、見本帖やスクラップブック、カタログなど、本来消費期限がきれたところで捨てられてしまうようなものに重きをおくのも、この分野に主力をおく上での特徴だと云えるかと思います。写真帖も被写体や年代によっては高値で買い付けできるものもあります。
作家や画家、著名人の書簡やハガキ、自筆原稿など、誰がみても価値のありそうな直筆ものや銅版画や木版画などの作品も扱いますが、上記の通り、断捨離の度に真っ先に捨てられてもかおしくないものを主力商品としているわけです。
メルカリでトイレットペーパーの芯が売れると聞きますが、捨てずにとっておいていただきたいものが、みなさんのまわりには実にたくさんあるはずです。
「おや。」とか「もしかしたら。」「はてさて。」などなど、捨ててしまってよいものかどうか迷った時こそ迷わずに、小店までとりあえずお問合せ下さい。お電話は東京03-3400-0327まで。どうかお気軽に! 何卒よろしくお願いいたします。

と、書き始めた流れもあり、こんなのまで商品になるのかというのが1点目。町のお菓子屋さんに消耗品を卸していた専門店「釜屋商店」印刷部による「掛紙」の見本帖。「東京市芝区新橋」の住所表記、デザインの傾向や紙質、また、表紙のご挨拶文に「今回第一回の作品を数十種発表いたします」とあることなどから、戦後のもので、1947年頃までのごく限られた時代に作られ使われたものと見られます。
同じ挨拶文には釜屋商店の「印刷部の創案になる」との文言があり、デザインは社内スタッフによるもの。例えば杉浦非水風や河野鷹思似からヨーロッパの図案的なものなど、引用とかパクリとか云えばそれまでですが、実によく勉強していたことが分かるデザインが目をひきます。

見本帖は取引各店に配布。発注する時には見本帖から発注分を引き抜き、屋号や商号・住所などを入れたいところに書いて注文する、という使い方をしていたようです。
サイズは26.5×38.5cmとやや大ぶりで、和風もあれば洋風、また、お祝い菓子用も香典返し用も揃っている全56種・56枚のひと綴り
表紙の傷みが惜しまれますが、発行元、時代、使い方などまで分かるという点では、デザインの面白さだけでなく、資料的な意味を併せ持つ珍しい1冊です。

■2点目は端的にモノとしての美しさでまたしても手出ししてしまったガラス乾板。どれだけ買えば気が済むのか… はさておき。シカゴ美術館のライアソン図書館(現・ライアソン アンド バーナム アーカイブか?)に収められていた写真資料で、1910~1920年代に複写されたものと見られます。
今回入荷したのは約80点。ヨーロッパのロマネスクからバロック様式の教会建築を中心としたセレクションで、薄く彩色するなど繊細な手仕事の痕跡含め、是非、現物をご覧いただければと思います。
画像にとったのはペテルスブルクの聖ピーター&ポール大聖堂、世界遺産となったバンベルクの大聖堂、ニュルンベルクの聖セバルドゥス教会、ドイツのビショフスハイムのカソリック教会など。
「ライアソン アンド バーナム アーカイブ」で画像を検索してみたのですが、これまでのところ公開されているデータに重複するものはなく、データの公開がこれからなのかデータ化かされることなくガラス乾板がもれ出たのかなど詳細は不明。ただ、シカゴ美術館の図書館、被写体、被写体に関する情報をタイプ打ちしたメモが貼り付けているのガラス乾板のモノとしての存在感を高めるのに役立っています。
と云ったところで、実際にはなかなか売れないガラス乾板。やれやれ。
小店店主同様、ガラス乾板を見ると放っておけなくなる人が現れるか育つかするのを首を長くしてお待ちいたしております。

今週の斜め読みから。
「美しく成長する国」と仰る方の背後にはこの方が。
https://dailycult.blogspot.com/2021/09/blog-post.html?spref=tw&fbclid=IwAR0iYvo87LzbnJ0WN_VSCQU0haNxkB8vY7EQKkTYUPhMVPeuNJOpDwIKB84

翻って世界を見れば、ことは「何とかミクス」なんぞでどうにかしようとする方がどうかしていることが分かりそうなものなのに。
https://wired.jp/membership/2021/09/13/why-commons-is-important-for-next-economy/?fbclid=IwAR3GAbbGYOAIzN9NyEbTqiC8hRAfaOduSdfeF3lDRHir06471hETzlj0PXY

同じ第二次大戦敗戦国にしてこの違いに愕然として。
https://mainichi.jp/articles/20210914/k00/00m/050/286000c?fbclid=IwAR3kLCFlsqVz_Ibtid4DY6bR4hIsU5-R5bjOG6ubbpWf9dDkXZUAI1GGjAg
我彼の違いを生んできたのは紛うかたなき国民の責任なんだよなーと つい遠い目になる。

 

 

21/09/11 小さなサイズの木版刷りもの各種入荷!


■先週土曜日、2度目のワクチン接種を終えました。副反応なし。ひとつもなし。「バファリン・ルナI」も「ひえピタ」も「ポカリスエット」も出番なし。うしし。良かった。ラッキーだった。と思う一方で、これで本当に抗体できるのか? 生理食塩水で薄めてないか? と疑念が浮かんできたりもし、副反応がなくて良かったのか、あった方が良かったのかわけが分からなくなった今週ではありました。
というわけで、本日9月11日以降、また火木土曜日の12時~19時とコロナ禍下での通常営業に戻ります。
ご来店にはアポイント制を継続いたしておりますので、ご面倒かとは存じますが、事前にご連絡下さいますようお願い申し上げます。

今週は、いずれも小さなサイズの木版の刷り物が多種入荷いたしました。
1点目は燐票=マッチラベル。マッチラベルについては、都市風俗を色濃く映した資料的な意味をもつ広告マッチを中心に、いまでも時々仕入れていますが、趣味人が交換を目的につくらせた木版刷りのマッチラベルはあまり面白さが見いだせないこともあって遠ざけてきました。結果、二十余年、エフェメラを取り扱ってきた小店ですが、木版刷りのマッチラベルがこれだけまとまって入るのは正真正銘これが初めてとなります。
とくに画像中下段の左、「小川沙久 自画刻 十二支」の十二枚の図版には何ともいえない味があり、俄然、買う気になりました。12点全点については左上の画像をご覧いただくとして(とくに兎と猿にご注目下さい)、つまりはマッチラベルを買うというより版画を買ったようなもので。
版画を買うつもりで入札に及んだもうひとつの動機が、下辺に黒の帯を敷き、そこに白抜きで発注者の名前を入れるという統一したフォーマットにおもちゃ絵を配した30枚のシリーズ。画像中上段のそれにありました。 

木版刷りの燐票がまとまって出てくる場合、圧倒的に多いのが役者絵や浮世絵風、でなければ蕎麦屋か日本酒の商標っぽいものが圧倒的多数で、可愛いとか洒落てるのが少ないなかで、これは悪くないと思いました。
そんなこんなで落札したのを改めてつくづく眺めてみると、おもちゃ絵の30枚全てに「贈福山碧翠君」とあるのを発見。福山碧翠君とは誰ぞやと早速検索してみたところ、“般社団法人日本燐寸工業会および協同組合 日本マッチラテラルが運営する「マッチ」のミュージアム”「Virtual Museum マッチの世界」にたどり着きました。監修はご存知、加藤豊さん! とても楽しいサイトです。 みなさまもどうか是非ご訪問下さい。
話しは戻って「福山碧翠」。
ミュージアムに設けられている「マッチの歴史」の部屋を早速訪問。すると年表の1ページ目から福山の名前が出てくるではありませんか!
福山は1876(明治9)年生まれ。1900年に上京すると煙草屋を開店し“愛燐家村上群雀と知りあい、燐票収集を開始”と云いますから、燐票蒐集家の草分けの一人であるに違いありません。2年後には「奴商行」を創業してマッチを取り扱い、さらに共同経営を得て新会社を立ち上げると広告マッチの製造にも乗り出します。その翌年の1903(明治36)年には早くも「燐枝錦集会(りんしきんしゅうかい)」を創立して第1回会合を開催。日本のマッチ産業草創期より、実業と趣味の両面でマッチとの関係を深めていった人物だと云えそうです。
その後は関東大震災も乗り越え、1927(昭和2)年には南千住町にマッチ工場設立。また同年、燐票蒐集量は20万種を数えたと云います。コレクターとしても破格。
しかしその福山は1933(昭和8)年、脳出血で倒れます。それにより、神田末広町で営んでいた広告燐寸商「ヤッコ商行」を譲った先というのが同好者の小川沙久でした。
一括で落札した他の木版刷りの燐票を改めてみていくと、「東都木版燐楽会発行 見立十二ヶ月 第壹集」12枚「東都辛美会 雛百種盛会礼」100枚「第五回木版票 交歓会盛会」4枚などがあり、明治末~昭和初め、木版燐票をめぐる趣味人の活動が伺える内容であり、資料的な意味も読み取れそうではありますが、とはいえ一括で欲しいという人は稀だろうと思いますので、各シリーズごとの販売とする予定です。
 

 ■画像2点目は木版刷りのポチ袋のシリーズ『音曲所作撰』。第二輯~第五輯の4点でそれぞれ6枚入りの完品です。
タイトルにある通り、助六、越後獅子、どんつく など、よく知られた音曲に題材をとり、デザインに落とし込んだシリーズで、大津市鹿関町にあった大津堂というところから発行されたもの。
意匠についてのクレジットはありませんが、古典的なモチーフを大胆な構図で現代的にアレンジした手腕は目をひきます。
B5のOPPに1袋、一緒に落札したなかには、さくら井屋の絵封筒などもあり、『音曲所作撰』以外はぼちぼち値付けをしながら随時店頭に出していく予定です。

今週はもうひとかたまり。江戸千代紙の老舗、ご存知いせ辰さんの木版刷小型千代紙15枚が入荷しました。20×13cm前後と小さなサイズですが、福笑い、面づくし、猫の踊りづくし、玩具双六など楽しいものばかり。
なかでも驚いたのが今週3点目のこの画像です。
鬼太郎の目玉のおやじから目の部分をとったような、がしかし顔は赤いし体には真っ赤な血管が浮き出ているし、典型的なキモカワ。
余白部に刷られたタイトルは「志ん板おもしろほうづき絵」。
なるほど、このキャラクターは袋の部分を4分割して実の部分を上に向けたほおずきを擬人化したものだったというわけです。
それにしても、ほおずきが海ほおずきを売ってたり買ってたり、白玉食べてたり大福売ってたり、いせ辰さんのほおずきは自由だ……。

■今週の斜め読みから。
悪いことはいわないから この人だけはいけませんって & こういう人を称賛ってまたまた世界から遅れていくだけですって。
https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0909/ltr_210909_7807241789.html
この人のあたまの中には徹頭徹尾自分のことしかないんですねえ。
https://www.asahi.com/articles/ASP987SB7P98UTFK02S.html?twico
ハンバーカーならマックでだって食べられると誰か教えてやって欲しい…。

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