■12日にはお陰様で「Open-House-Market Series1 村上邸」を無事打ち上げることができました。ご来場は80名様を超え、邸内の写真を撮る方あれば村上家ご当主と話こむ方あり、玄関脇に座り込んで庭木を飽かず眺める人の姿などもあって、お買い物以外にも思い思いに過ごすみなさまに接すれば、細かい作業の労もたちまち忘れてしまいました。ご来場、本当に有難うございました! 「Series2 中野区・鈴木邸」のお申し込みは23日(木)の夕刻までこちらで受け付けております。26日(日)の開催当日には、また多くのみなさまとお目にかかれますよう…。 ■わたくし少々クタビレた様子を見せているやも知れませんが、来週も店はいつも通り火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたしますので。くどいようですが。こちらもよろしくお願いいたします。 ■新着品のご紹介といって、毎週毎週分かったようなことを書いておりますが、舞台裏はといえば実は時間と競争しながらのさながら格闘技。つまり、毎週市場で落札して来るものの多くが-再入荷品のご紹介は避けているとはいえ-その時点では-ほとんど何も知らない・分かっていない、というわけです。で、『非人称命題叢書 西史』 (?)は昭和8年に発行された清水房之丞という人(?)の詩集。小型の薄冊ですが、その佇まいの良さといったら。頭の中は??だらけでありますがヒントはそれなりにあり①発行は「詩之家」②裏表紙に印刷された叢書目録の著者に佐藤惣之助、竹中久七の名前あり!そして③「装幀 古賀春江」!!-①をヒントに②であたりをつけ、③で腹を決めたという感じですかね。落手さえ叶えば、パソコンに向かって直ちに検索、こんな古本屋失格の私にも多くのことがほとんど即時に分かるご時世ですが、それでもしかし、「距離」にディスタンスとルビを振り、オトバイが走り、白亜層に中に発電所を見出す著者の時代精神や、装幀のグレーがかった青の深みや絶妙な位置に引かれた線の繊細さなどなど、言葉で表現し難く、画像でさえお伝えしきれないことのいかに多いことか。しかも、こんなにささやかな本だというのに、糸綴じにおける超絶技法ともいうべき技が施されており、こうしたこともやはり現物を手にしてとっくり眺めて初めて分かることなのでした。
■もう一点は入札用の封筒に「千代紙」と書かれていた一口。更紗模様の千代紙は珍しい…と眺めていると、千代紙でよく見られる木版とは色ののり方も紙質も違う。ならば何か。とまるで先週の続きようですが、色面の面積の比較的大きなところに残る刷毛目や顔料の“たまり”などから木版ではなくポショワール=ステンシルによる彩色と判断。50点を上回る図案を総合的に見て、これはテキスタイル・デザインの見本=お手本にあたるものではないかと推測。さらに細かく見ていくと、社名の入った手ぬぐいの図案があるし、とうとう「東京・京橋 ちどりや染物店」の案内状も出てくるし、どうやらこの染元さんが保存していた見本と見て間違いないでしょうね。先週の謎は依然として解けずにおりますが、今週は無事、腑に落ちてくれました。図案は洋でもなく和ともいいきれず東西がいい具合に混じりあい落ち着いた色彩も見事、彩色は非常にきめ細かく、いずれもハイセンスかつ丹念な仕事の跡を留めていて、こちらもまた画像だけではお伝えしきれない現物だけのもつ力に溢れています。一人で盛り上がって下札での落札でした。分からなくても買ってみる。現物と向き合う。その時に「私」が受け止めた見込みや感嘆に値を付ける。奇しくも今週の新着品は、そうした買い物例を並べたようになりました。ものを知らないことは、とりわけ古本屋という立場からしてとても恥ずかしいことですが、それでもなお、古本屋の力を養うのはそんなことの積み重ねでしかないのではないかと思います。かくして毎週金曜夜の格闘は古本屋である限り続く……のでしょうか。やれやれ。今週はこの他、20世紀初頭~1920年代頃までのパリを中心とした欧州観光写真集十数冊(内パリの一冊は皮装)、美術・芸術論考書籍15冊、戦前の印刷技術関係書などが入荷いたします。来週月曜日は鈴木邸の最終準備。みなさまのご来…くどいって!
■明日12日(日)はいよいよ「Open-House-Market」のSeries1.村上邸の開催当日。お申し込み下さいましたみなさまには、心より御礼申し上げます。準備万端整えて、みなさまのご来場をお待ちいたしております。また、Series2.鈴木邸については引き続き参加お申し込み受付中。併せてよろしくお願いいたします! ■今年は企画展があるからといって店を休まない方針。ホンマかいな。本当デス。来週も店はいつも通り火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたしますので、こちらもひとつよろしくお願いいたします。 ■こんな経済状況のなかで本買ってどうする…と考え始めたら一点も落とせないのが市場というもの。新聞にもテレビにも目をつむって、今週もやってまいりました市場からの新着品。金の紋章も立派な最初の一冊は、『AGENDA P.L.M. 1924』。アジャンダとは、暦に家計簿または防備録の機能を足し合わせたようなもので、19世紀に世界最古の百貨店といわれるボン・マルシェが発案、実によく考えられた宣伝媒体なのですが、長くなるので端折りまして。とにかくフランスではかなり人気のあるアイテムだったようで、タイヤメーカーやら理髪美容業界やら、さまざまな業種が発行・顧客に配布したなかで、今回のはその鉄道版。パリとリヨン・地中海方面を結ぶ鉄道の路線図と主要観光拠点のガイドに、1年365日の日付入りノート(防備録)とを合体させたような内容となっています。画像の真ん中、ノート部分の各上部にはモノクロながら毎日絵柄の変わる挿絵が配され、さらに画像右端のようなカラープレートも挟み込まれます。カラープレートを手掛けたイラストレーターは、一点一点目次にもその名前が列記されており-残念ながら私の知る名前は見当たりませんが-当時としては文字通り名前のある作家が手掛けたものと思われます。旅やリゾートが、一般市民でも背伸びをすれば“背の届く贅沢”だった時代。いま、時代はどこまで巻き戻されようとしているのか、そんな疑問が頭を過っていけません。
■次はひさぁーしぶりの紙モノ新着です。本日の落札表で何と記されているのか改めて見ると『定見本四十枚』と。これでは何だか分らない。要は手製の見本帖なのですが、何の見本かというとですね。およそ42cm四方のちりめん和紙(手揉みで細かいシボを入れた柔らかい和紙)の中央部分に白を残し四方を囲むように木版多色刷図案が配置されているものばかりを集めたものなんですが…「だから何。」「そうですよね。」買っておきながら、正直にいいまして、これが……分からない。四方にレースを模したのなど見ると、テーブルナプキンのようでもありしかしそれにしては大きく、図案にはめでたそうなのや季節感を取り入れたものが多いので引き出物を包むのに使ったようにも見えるのだけれどそれにしては紙が薄くて心もとない。ランチョン・マットにするにはこれまた大きく、真ん中の“あえての白?”も意味不明。「鼠の嫁入り」はまだ普通、「蛙+亀+蟷螂」(コワカワイイ) 「紅葉+蜘蛛の巣」(不気味)果ては「猿蟹合戦+桃太郎」(変)「東欧フォークロア+絞模様」(何処から来たんだ)という図案も謎といえば謎。いままで結構な種類の紙モノを、洋の東西ばかりか南北をも問わず扱ってきたつもりでしたが、ここまで分からないといささか自信をソーシツします。世界の金融危機よりも、この分からなさによる動揺の方が応える小店って-まだ資本主義以前。確かに。今週の新着品のなかではフランス文学者宛ての私信類(多田智満子多数、朝吹登水子多数、矢内原伊作5通、柳瀬尚紀3通他、渡辺一夫、江藤淳、中村真一郎等) も面白いのですが、これはご紹介までいま少しお待ちください。あっ。松澤宥『プサイの函』も再入荷です!
■ちょうど一週間前に商品の画像を追加した「Open-House-Market」。10月12日(日)開催のシリーズ1は、ご参加のお申し込み締め切りをぎりぎりで10月9日(木)の夕刻までとさせていただきます。左のアイコンをクリックして詳細ご確認の上、ご興味がありましたらとりあえずお申し込みください。万一、もしも、ですが、例えば雨で「一箱古本市」が順延となってしまって、ならば行ってみようかといっても、こちらから郵送する地図がない限り来られません。備えあれば憂いなし。お申し込みをお待ちいたしております。それにしてもこの日程の詰めの甘さよ。我ながら深く反省。 ■もちろん店もやってます。来週も店は火・木・土曜日の各日12時~20時での営業です。今月は二度の「Open~」がありますが、店は週三日営業を堅持したいと。できれば。(←すでにあやしい) ■もう少し簡潔にまとめられないものかと思う毎週のこの更新。新着情報は駆足でいってみます。最初の画像は1922年、ドレスデンの版元から発行されたMYNONA著『GEORGE GROSZ(ゲオルゲ・グロッス/ジョージ・グロス)』。ダダイストにして20世紀を代表する世界的諷刺画家・グロッスに関する論考と作品をまとめた一冊で、第一次世界大戦で重傷を負って除隊した1915年以降の諷刺画、油彩、水彩画が集められています。当書発行当時、グロッスは29歳。巻頭に置かれた肖像写真は人を寄せ付けない眼光の鋭さがあり、すでに大家の風貌。周知の通りグロッスは村山知義や松本竣介など、早くから日本の画家にも多大な影響を与えましたが、なかでも筆頭にあげられる柳瀬正夢の展覧会が来週から始まります。詳細はこちら。柳瀬の漫画に焦点をあてたこれまでにない内容、そして図録や展示方法まで、かなり充実したものになる模様。これはちょっと楽しみですよ。
■そういえば、不思議と指月社の刊本を古本屋では見ませんね。と、お客様と話した数日後。市場で薄い冊子ばかり括られているのを解くと…2001年、指月社発行のポール・ボネ著『書物装飾・私観』がある!ただし表紙に埃シミがあり、思案しながら別の本を見れば、これがいずれも極美の「海人舎」の刊本多数。海人舎は北園克衛に連なる詩人・鳥居昌三が主宰していたプライベート・プレスで、北園の謦咳に接していた人らしくどれも瀟洒で繊細、もちろん限定版で私は初見のものばかりです。鳥居の詩集としては1992年・限定115部発行の『風の記号』と1994年・限定125部発行の『背中の砂漠』との二冊。画像にとった雑誌『TRAP』は13~15号(1991~92年)の三冊で各限定195部、耳付和紙の未綴じリーフで構成されており全葉タイトル色刷りの活版二回刷り。さらに画像右上は、表紙を含めてたった4頁、詩一篇にカット1点(活版及び凸版)を添え奥付を付しただけ。それを綺麗な糸で綴じてこれが限定250部。この冊子を眺めていると、「本」というものを成立させる必要最低限の要素とは何かが分かったような気になってきます。北園とその人脈に手をつけるのは古本屋として最も恥ずかしいことだと思う領空侵犯のひとつで、普段ならまず手を出さないところですが、今回の落手には少し理由がありまして、それについてはまた別の機会に。今週はこの他、展覧会図録・美術関係書約30冊、フランス見聞関係他戦前の古書10冊などが新着……とまたどうしてこう長くなるんでしょう?毎週お付き合い下さっている方に感謝しつつ、ここでもまた深く反省する2008年ももう10月の第一週目です。