■来週に入ればクリスマス、それを過ぎれば気分はもう年の暮れ。年内の店の営業日は明日20日(土)、23日(火)、25日(木)、27日(土)の4日間、各日12時~20時となります。慌しい時節、小店も慌てて商品の入れ替えに努めつつ、ご来店をお待ちいたしております。 ■この仕事を始めてからというもの年の瀬を迎える度に、1年をどうにか古本屋としてやり過ごせたことに安堵を覚えます。毎月末の銀行残高の減少、毎週数度は参戦する市場という名の賭け、売れるか残るか予想もつかない商品、その上にある日々、とは即ち「綱渡り」。今年も何とか綱を渡りきれそうなところで、今週数多ある新着品から選んだのは『L’AME DU CIRQUE』。タイトルは「サーカスの精神」とでも訳せばいいのでしょうか、アカデミー・フランセーズによる道化師の心得をテキストに、豪華アーティストによるビジュアル作品を付し、1924年に限定403部を発行しています。初見ながらキュビスム風の表紙(ポートフォリオ)に目が留まり、開いて見るとリトグラフおよび手彩色のプレートが14点、サインを見ればデュフィのがあって (上の画像左端)、おやおやと慌てて目次に戻ればイラストを寄せた人物名がずらずらずらっと13行。コクトー (なるほど)、スゴンザック (まあね)、ピカソ (来たか御大)、ルオー (ははぁっ)……フランス挿絵本の黄金期にあっても王道に位置づけられそうなこの内容では小店の手には余ります。と思いつつもここひと月ばかり不意に格上の品物が落ちてきたりするのでままよと入札したら落札と相成ってしまいました。テキストは40Pほどの短いものですが、コクトーをはじめプレートを手掛けたアーティストの挿絵も多数、文字組とのバランス、レイアウトも見事な一冊です。この本に欠けるところがあるとすればそれは唯一、「綱渡の極意」なのでしたワタシの場合。
■来年、2009年はディアギレフ率いるバレエ・リュスがパリでの初公演を果たしてから丁度100年、そしてディアギレフの死による実質的な解散から80年にあたります。バレエ・リュスの終焉から約四半世紀の後、ディアギレフがストラヴィンスキーやピカソと手を組んだように、新時代の音楽家・美術家と手を組み、ダンスの新しい言語を探り始めた一人にコレオグラファーであるマース・カニングハムがいます。新着品2点目は、『Dancers on a Plane CAGE・CUNNINGHAM JOHNS』。1989年、イギリスで発行された限定200部本で、ジョン・ケージ、マース・カニングハム、ジョン・ケージの三名揃い踏み直筆署名入りです。ロンドンで開催された展覧会に際して発行されたもので、序文はスーザン・ソンタグ。165Pの内、約1/2はケージによるスコア、1968年のマルセル・デュシャンの大ガラスをモチーフとした作品等カニングハムによる公演やレッスン時の写真、ジョーンズの平面作品といった図版で、巻末には資料も付されています。ロマンチック・バレエからバレエ・リュス出現までの時間と、バレエ・リュスからマース・カニングハムまでの距離。20世紀に入ってからの時代の進むスピードは、前世紀の比ではなかったはずです。そして、20世紀の5分の2を生きてきて、いま21世紀も二桁が直近となってみると、ここ一カ月-たったの!-の間に市場で起きていることひとつとっても、そのスピードはさらに加速しているとしか思えません(…単なるトシのせいか?)。来年は一体どうなるのか誰にも予測はつかず、どこで聞いても厳しいという言葉しか返ってこない2008年の暮れ。間違いのないことがあるとすれば、私たちには歴史という豊かな手掛かりが既に与えられていること、なのだと思います。一方、ピンチはチャンスとは誰のいった言葉だったか、こうした逆境だからこそ地べたを這うものは強いもので、今週はこの他にも大量の新着品あり。添田唖蝉坊『浅草底流記』昭和5年版、『詩・現実3』カバー付き、『建築写真類聚』がバラックやらカフェー・レストランやら18冊、戦前左翼系書籍8冊、戦前都市風俗関係書籍4冊、戦前詩集・翻訳詩集5冊、銅版画集『PARIS』他フランスの限定本3冊、『ラテン・アメリカの文学』シリーズ・月報付き(このシリーズは月報も必見)の10冊、果ては上田義彦写真集『INTO THE SILENT LAND』(限定版) なんていうものまで。しかもこれがいま覚えている範囲のことで、実際には他にもあったなぁ……と、先ほど組合のネットに繋いで来週の支払い分を確認いたしましたところ空前絶後の額に愕然としました。しかも払いは年内。ピンチはやっぱりピンチでしかないばかりか、ますますのピンチを招いたようです。綱渡り、最後の一歩が肝心。というのも、やっぱりどこかに書かれていたような気もするけれど……。
■先週もお知らせいたしましたが、市場の関係で来週の店の営業は18日(木)の20日(土)の二日、各日12時~20時となります。16日(火)は休業となりますのでどうかご注意下さい。20日以降、年内の営業は23日(火)、25日(木)、27日(土)を残すのみとなります。何かと気忙しい時節ではありますが、一服ついでにお立ち寄りいただければ幸いです。 ■少なくとも今年の表参道では、例年の、心浮き立つような12月らしい気配がほとんど感じられず、ううむ。これは剣呑な。といったところでとり出しますは世界屈指の銀食器メーカー『クリストフル』の1912年と1920年に発行された商品カタログ(各1冊の計2冊) 。発行年度とは別に、夫々巻頭に「増補1921年」と明記された紙が一枚綴じ込まれ、そこには日本語旧字縦書きで換金レートが書き込まれ、さらにその次のページ(本来の扉)にはクリストフル社輸出部門の印とともにシリアルナンバーが手書きで記され、“上記ナンバーによっていつでもリファレンス可能”という文言が認められます。つまりこのカタログ、1921年にかのクリストフル社が顧客として認めたしかるべき筋の日本人の手に渡っていたもの、ということなります。居たんですね、日本にもお大尽。再びカタログに戻り、2冊の内1冊はカトラリーからティーセット、燭台、花器など家庭用品を集めた91P、もう1冊はホテル、レストラン、カフェなど業務用品のカタログで、フレンチではお馴染み大皿用の蓋、エスプレッソメーカーや卓上ソルト&ペッパーセットまで揃う40P。両冊とも、巻頭に同社工場からわらわらと出てくる職人さんたちの写真が添えられているのは「ブランドの本質はモノ作りを支える人々にあり」という姿勢の表明のようにも見えます。このカタログが日本に入って来てから約90年、高度成長期を経ていくつもの世界的メーカーを擁しながら、しかしさて、日本にブランドと呼ぶに相応しい“ブランド”は何処に?-馬鹿げたクリスマス商戦に現を抜かしていた四半世紀前、それでも当時は「企業の基本的かつ最も重要な社会的貢献は安定した雇用にあり」とされていたのを、遥かに遠い物語のように思い出しました(私ももはや歴史の証人…)。
■この時期、実はクリスマスよりずぅーと悩ましいのが小店の場合は年賀状なのですが、今年はこの1冊でもう安心。というのがお次の新着。清水正巳著、大正12年誠文堂刊『実例三百 続チラシの拵らへ方』。画像には入れておりませんが、本体表紙と同デザインの函付、初版です。タイトルにある通り、あくまで「チラシ」に的を絞った図案集で、文章を自由に入れられるよう十分な余白をとり、余白のバランスを含めてデザイン化されているので、実は何にでも応用できるという強みがあります。それが実に300案! 既刊の『チラシの拵らへ方』が好評で、しかも“「あの図案だけでは未だ足りません。何しろ次から次へと広告を出すのですから、そして亦(中略)私の商売に向くといふのは何十枚しかありませんから」”(序文)という思えば我儘な読者の要望により、急遽続刊で300案。見れば海外広告のパクリあり、夢二調あり、かいち風あり、洋書児童書の挿絵らしきものあり、時々誤魔化して国内優秀作品を混ぜたり苦心惨憺しながらも300案ですから立派なものです。とくに人物を活かした図案が多く、“文句は一つ清水式の面白いのを考へて”と序文にあり、ここでいう文句はいまでいうコピーのことなのですが、むしろ吹き出しを付けてセリフを振ってみたくなるという、年末年始向け・使えて遊べるお得な1冊(また馬鹿なことを云ってますよこのヒトは)。今週はこの他、美術系洋書、展覧会図録などが店に入ります。図録と先々週以来積み残しになっている建築関係書などについてはボチボチ「雑書目録」にもアップいたしております。来週は市場だけで3回、その他にも入荷予定あり。年末まで本と紙と銀行残高と各種入り乱れての格闘が続く模様です。
■何ともはや。今年も12月に入ってしまったとは。このご案内の更新も、今日のが終わると年内はあと3回、店の営業日も10日を切りました。来週はいつも通り火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたしますが、12/16・再来週の火曜日は市場のため店はお休みをいただきます。その後は通常に戻って27日(土)まで営業の予定です。年内最後まで、よろしくお付き合いのほどお願いいたします。 ■新着品、先ずはカナディアン=パシフィック汽船の客船「エンブレス・オブ・カナダ」「エンブレス・オブ・ロシア」「エンブレス・オブ・アジア」三隻を紹介するパンフレットで1926年の発行。この当時の客船案内類は、いきおい豪華で立派なものになるために残存もし易い就航前のパンフレット類が目につくせいか、外観から内装まで完成予想のイラストで紹介されたものが多いなか、今回のこの一冊は既に就航していた客船の案内なので中面約50Pのほとんどが写真、従って実際の内装がよく分かるというところに手柄があります。船名に因んで三隻夫々に異なり、いずれも細部にまで意匠の凝らされた船内は、一等食堂から客室、書斎室、子供部屋まで、イラストで見るより実際の方が遥かに豪華だったのではないかと思わず見入ってしまいます。表紙には「Canadian Pacific Steamship」、つまり「蒸気船」とあり、1920年代半ばにあってこの点でも珍しい…のかと思いきや。改めて調べると“蒸気機関を用いて”プロペラ等による動力を得ているのが蒸気船で、広義には原子力船なんてものまでいってみれば蒸気船であり、蒸気客船としては日本のピースボートのチャーター船として知られた(…知らなかった)「ザ・トパーズ」号が奇しくも今年4月まで現役だったのが世界最後…とは今回初めて知った事実。これまで客船関係の印刷物を散々扱っておきながら、実に恥ずかしいことに。あと何年あっても知識は一向追い付かないというのに、一年のこの短さをどうすればいいのかと思う12月初めの新着品です。
■続いて戦前のダンス関係雑誌の落札品一口から、画像は『モダン・ダンス』。新入荷は同誌だけでも7冊、昭和12年前後の発行分。タイトルや永田一脩による表紙のデザインから当時の前衛舞踊関係かと思えば、これが大衆娯楽としてのダンスを中心に扱ったもの。それだけに広告の多さが目につくのですが、中国のダンス・ホール広告多数あり、しかも内装・外観の写真なども散見される点では広告も軽視できないものとなっています(ちなみに昭和12年1月号に掲載されている「全国舞踏場一覧」を見ると、全85軒の内、37軒が現台湾・中国にあったホールのデータ)。昭和12年といえば日中戦争勃発で「時局」という娯楽にとっては厄介な状況が出来した年。記事には京都のダンス・ホール会社社長が自ら、“我が国情に適せないもののあることを痛感”してホール閉鎖を名乗り出たことに対して、実は不況によるものではないかといって不快感を表すものや、“国民的自覚による舞踏日本確立の信念を喚起すべき”と叫ぶ論調がある一方で、“全ダンサーがジャケツを編んで海軍省へ”や“全ダンサーがネルを持って出征兵士家庭訪問”といった解説付きの写真あり、で、大衆文化が時局に翻弄される様が生々しく記録されています。もちろん、当時最新の振付研究やステップ図解、ジャズやダンゴといった流行の海外情報、ハリウッドミュージカル映画の紹介やスターのグラビアなど、舞踊・音楽の情報が中心となっていますが、この雑誌に関していえば、時局と大衆娯楽・文化、或いは植民地関係資料としての見方に耐え得るものと思われます。この他、同年代の『ダンスと音楽』5冊 (ジャズ、レビュー情報から「踊る国枝史郎先生」の写真まで。時局に対応してダンスのスポーツ化を提唱)、中村弘高主宰雑誌『タップ』2冊 (タップとレビュー関連情報) 他16冊が一括で、また、エディトリアル・デザインや写真がいかにも1960年代な旅行専門洋雑誌『HOLYDAY』12冊、アール・ヌーヴォーおよびアール・デコを中心にファッション、デザイン関係の洋書15冊、そしてまたしても古本屋としてはいかがなものかと思われるアイテム-蓋がスポイトになっている古い薬ビンや古い医療道具、顕微鏡など-が今週の新着品となります。建築関係書を中心にまだ入力しきれていない「雑書目録」分も50冊ほど。年末までに少しずつでも片付けていきたいと思いますので、こちらもご高覧いただければ幸いです。