■とりあえず「雑書目録」に新着品をアップしつつあるものの(乞ご高覧!)、今週も山成す紙モノには手も付けらず、棚の入れ替えもままならず、何でそんなに忙しかったのかというと具体的に思い浮かぶこともなく、どうも即売会後の虚脱状態が続いていけません。そろそろエンジンを全開にして、来週も店は火・木・土曜日、各日12時~20時で営業いたします。呆れず懲りずお付き合いのほどお願いいたします。 ■ついこの間、ペニョ社の総合カタログがようやく嫁入りしてくれたばかりだというのに…またしても売りにくいものを買ってしまったフランスの印刷会社の総合カタログ。といっても、本日落札いたしました『Cliches Typographiques』は日本で「花形」と呼ばれていた活版印刷に使われる装飾的図版だけを集めたカタログだというのが面白いところ。厚さ約3.5cmの上製本の体裁をとっていますが、途中で紙質やデザインの傾向の異なるページが追加・製本された痕跡があり、刊期の記載はないものの、20世紀の初め頃から少なくとも一定期間にわたり大切に使われていたものと想像されます。図版はアール・ヌーヴォーの優美な飾り罫多数、日用品、ファッション小物各種はもとより工具、農具、聖書のモチーフや動物・植物まで、「ないものはない」と思わせる収録数、即ち「つかいで」たっぷり。加えて例えば、自転車の図版がかなり多めなのは当時流行していた(はず)だからだし、コロニアリズムを背景としたものか有色人種の図版が見られるなど、ここにもしっかり時代が刻印されていて……と、このへんにしておいて、つまりはどう見る・どう使うかはアナタマカセの一冊というわけです。
■私一人が呆けている内に2008年もはや半ばを過ぎてしまったからといってもさすがに早すぎる賀正賀正賀正…の図版。こちらは紀元2599年 = 1939(昭和14)年用「カレンダー」の印刷見本。全て多色刷りの11点の入荷となります。印刷見本だけはこれまでも結構扱ってきたつもりですが、カレンダーはこれが初めてです。あくまで見本とあって、カレンダーの上部、厚紙で作りつけられた発注元の店名・企業名の入る部分は飾罫のみ、また実際のカレンダー部分は、図版で示した表紙にあたる1枚の下に、それぞれ一ト月 = 1枚分だけ付けられています。見所はいうまでもなく、この表紙にあたる1枚。船にしても飛行機にしてもカッサンドルのように完璧、とはいきませんが、余白のとり方などに独特の日本らしさが感じられるアール・デコ様式と大胆な色使いに一目で惹かれました。11点全て退色・破損がほとんど見られない美品であるのも嬉しいところ。そして、こうしたデザインを手がけた人々が-例えパクリであったとしても-どこにも名前を残さない無名の人士であったことが、清々しく感じられてなりません。しか無名性を好んでしまう志向性というのは、「有名」「王道」の商材の有無が何といっても力を示す古本屋としてはいかがなものかと自分でもそう思うんですなんてことを書きながらも何気なく来週金曜日の業者向け出品目録を目で追っていたら……うわっ。何ダ!『妖精の距離』の文字があるじゃあないですか!!本当に出てきたら古本屋稼業十数年にして初のご対面。といったところで哀しいかな小店では大いに手に余る逸品とは十分承知。なので、せいぜいこの眼に焼き付けてまいります。古本の市場はまだまだ驚異に満ちています。そして王道をゆく古本屋への距離はその分、途轍もなく遠いと思う平成20年6月現在の日月堂であります。
■久しぶりに店に戻れば細かい仕事が山をなし、わが身ひとつの古本屋であるからには自ら働かないことには一向に片付かないのは当然とはいえ出るのは溜息ばかりでありますが来週も店は火・木・土曜日、各日12時~20時で営業いたします。ご来店のほど、よろしくお願いいたします。 ■こちらも久しぶりで金曜深夜の新着情報更新です。先ずは暫く手つかずだった即売会前の落札品のヤマからひっぱり出した『ARTS ET METIERS GRAPHIQUES PARIS 18』。1930年にパリで発行されたグラフィック関係専門誌。市場で見た時には当時のグラフィック・デザイン誌に比べてもリトグラフの点数が多いなど贅沢なつくりだし、図版ひとつひとつも随分洒落てるなぁとは思ったのですがとりあえず買っておこうといった程度の認識で、しかし今回、フロントページをよくよく眺めてみれば…カッサンドルと親交の深かった活字鋳造会社ペニョ社のシャルル・ペニョが編集主幹を務め、『ガゼット・デュ・ボン・トン』などハイ・クオリティな刊行物の仕掛け人として夙に知られていたルシアン・ヴォジェルも編集委員に名前を連ねておりました。納得。特集は、「アレクセイ・ブロドビッチ」。1920年にロシアからパリに亡命し、バレエ・リュスをはじめとする当時のパリの先端アート・シーンに関わり、後に『ハーパース・バザー』のアート・ディレクターを務めてエディトリアル・デザインに革新をもたらし、ファッション写真の興隆を後押ししたといわれる人物です。上の画像の右端は、当号のもうひとつの特集「リトグラフ」に寄せたブロドビッチの作品。ブロドビッチの作品は他にももう一点、多色刷りリトグラフが綴じこまれるなど、この一冊に全部で約10点にのぼるオリジナル・リトが収められています。そして勿論、ペニョ社の活字見本やデザインを重視した組見本なども含む、実に見所の多い一冊です(正直なところ、放置していた間には「何で。また。買っちゃったんだか」と思っていたのが、「よくゾ買ったっ」に大転換を遂げた一冊で。誉められたもんじゃないな自分)。
■さて、ブロドビッチと同じロシア人でも、こちらは戦前・戦後の極東・日本で芸術家・教育者として功績を残したワルワーラ・ブブノワがらみ。昭和12年、書物展望社発行の限定500部本『絵入小説・スペエドの女王』。プーシキンの原作、中山省三郎翻訳の小説には、ブブノワの挿絵10点が全て1頁使いの片面刷りで添えられています。書物展望社だけあって、造本や印刷・紙などにも趣向が凝らされています。といっても、実はこのクチ、別にもう一冊、同じくプーシキン原作、中山訳、ブブノワ挿画の『モォツアルトとサリエーリ』とともに出品されたもので、狙いはむしろ、私としては初見のこちらにありました。昭和10年・版画荘発行の『モォツアルト~』は、ブブノワの繊細な線で描かれた挿絵(高野文子風!)とそっけない造本で画像には向きませんが、ご興味のある方は是非、店頭でご覧ください。新着品はこれに留まらず、一向に片付かない本と紙のヤマに今週はさらに北村兼子の著作4冊、袱紗と絵葉書の図案見本帳 (それぞれ多色木版刷)、フランスで発行された子供のための舞台衣装デザイン集多数、プロダクト・デザイン関係資料として買ってしまった1950年代後半の『輸出雑貨ニュース』14冊、「雑書目録」用にはできれば常備しておきたいリチャード・バックル『ディアギレフ』上下揃いから始まって翻訳文学、人文科学、社会学系書物まとめて約80冊ほど、挙句の果てに稲垣足穂『一千一秒物語』『星を売る店』各々元版までもが積み上げられ。買ってしまったはいいけれど、即売会の売り上げはかくして一瞬のうちに蒸発していくのであります。これぞ「焼石に水」。昔の人はいいことをいったものです(……って何か違いやしないか)。
■ラスト・ランとなった「第11回アンダーグラウンド・ブック・カフェ」もお陰様で無事打ち上げ、今週末の古書組合支部大市のお手伝いが終われば、来週より店は通常の火・木・土曜日、各日12時~20時の営業に戻ります。ただし、即売会から戻った荷物やその間にも市場で落札した商品など、店の復旧にはいま少し時間がかかりそう。復旧ど同時に7月初めまでを目途にボチボチと商品を入れ替えてまいりますので、ぼちぼちとご来店のほどお願いいたします。尚、「アンダー~」の目録掲載品で在庫のあるものについては、引き続き先着順で販売いたします。ご注文のしおり、品切れの表示など、まだ正しく反映されていない部分もございますので、在庫状況や販売方法等についてはメールかお電話でお問い合わせください。併せてよろしくお願いいたします。 ■何だか久し振りの新着品紹介は1937年発行のナチス・ドイツによる国内向けプロパガンダ『DAS DEUTSCHLAND ADOLF HITLERS』。表紙のように見える画像一番左は当誌専用の筒状の袋で、本体表紙は威風堂々と装ったヒトラーの肖像写真、HPでご紹介する気にはなりません。写真中心の大判グラビア雑誌の体裁をとり、ナチス政権下で活性化する産業界、アウトバーンなどの社会資本整備、教育と健全な児童・生徒の育成、そして強い軍隊とヒットラーを核とした国民の結束などを謳っています。圧巻なのはやはり中面にも度々顔を出すヒットラーの肖像とさまざまに切り取られた軍備と軍隊、そして国民のそれらへの熱狂をとらえた写真群であり、また、画像にもとりましたが飛行機や鉄道、大型船などに見える「力」と、丸いルメット頭が整然と並ぶ兵士の行進(ちょっと見、某有名薄皮饅頭の箱を開けた時のような)に代表される「物量」とで溢れています。これでもかと続く力と物量の表現は、やがて歓喜に包まれながら階段を昇り来る総統の姿へと収斂される仕組み。くやしいけれど上手い。格好いい。嫌悪し警告する理性の一方で、それでもなお見入ってしまう反応があり、優れたプロパガンダがこれ以上にない「目くらまし」となることのひとつの証ではありましょうか。
■次の画像は石丸重治主宰・文芸同人誌で、復刻版も発行されている『山繭』の元版・昭和3年発行の三冊。ちょうど、青山二郎が盛んに寄稿していた当時のものですが、瀧口修造の寄稿、小文ながら同人によるパリ関係記事、イワン・ゴルの翻訳やエルンストの挿画など、戦前のパリ並びにアヴァンギャルドつながりで見ても面白い……とは思いつつも、文学書音痴の小店がまた何故???というのも尤もなお話し、これは一緒に出品されていた『詩法』三冊(画像奥)を狙って落札したものでありまして、『詩法』についてはあと数年のうちにカタチにできればと考えている自店目録用、従って当分の間、手元に留め置くことになりそうです(なので画像も奥にこっそり潜ませました)。ところで、市場で落札した品物については各店毎に「ヌキ」と呼ばれる一覧が渡されるのですが、「地下展」直前および会期中に行った市場のヌキを見ると-何だこの「パリ他 1本口」って?…「洋書7冊」のうち一冊は気球の本?だったと思うんだがしかし…何が狙いで買ったのか記憶のカケラもないゾ「海外旅行案内地図1箱」…「アール・エ・メティエグラフィ」って一体何よ?…この分野、まとめて買うはずないんだけど「映画関係3本口」…といった具合、まあなぁーんにも覚えてない。あっ。『むさうあん物語』の完揃いだけは間違いなく入荷いたしましたが。しかしいいんですかねこんなことで。さて。明日は神田の市場と支部大市のかけもち、明後日は支部大市の続きとそのお手伝い。片付かないうちにまた買いに走る、私の場合、古本屋というのは一種の病ではないかと自分でもそう思います。