■久しぶりに店に戻れば細かい仕事が山をなし、わが身ひとつの古本屋であるからには自ら働かないことには一向に片付かないのは当然とはいえ出るのは溜息ばかりでありますが来週も店は火・木・土曜日、各日12時~20時で営業いたします。ご来店のほど、よろしくお願いいたします。 ■こちらも久しぶりで金曜深夜の新着情報更新です。先ずは暫く手つかずだった即売会前の落札品のヤマからひっぱり出した『ARTS ET METIERS GRAPHIQUES PARIS 18』。1930年にパリで発行されたグラフィック関係専門誌。市場で見た時には当時のグラフィック・デザイン誌に比べてもリトグラフの点数が多いなど贅沢なつくりだし、図版ひとつひとつも随分洒落てるなぁとは思ったのですがとりあえず買っておこうといった程度の認識で、しかし今回、フロントページをよくよく眺めてみれば…カッサンドルと親交の深かった活字鋳造会社ペニョ社のシャルル・ペニョが編集主幹を務め、『ガゼット・デュ・ボン・トン』などハイ・クオリティな刊行物の仕掛け人として夙に知られていたルシアン・ヴォジェルも編集委員に名前を連ねておりました。納得。特集は、「アレクセイ・ブロドビッチ」。1920年にロシアからパリに亡命し、バレエ・リュスをはじめとする当時のパリの先端アート・シーンに関わり、後に『ハーパース・バザー』のアート・ディレクターを務めてエディトリアル・デザインに革新をもたらし、ファッション写真の興隆を後押ししたといわれる人物です。上の画像の右端は、当号のもうひとつの特集「リトグラフ」に寄せたブロドビッチの作品。ブロドビッチの作品は他にももう一点、多色刷りリトグラフが綴じこまれるなど、この一冊に全部で約10点にのぼるオリジナル・リトが収められています。そして勿論、ペニョ社の活字見本やデザインを重視した組見本なども含む、実に見所の多い一冊です(正直なところ、放置していた間には「何で。また。買っちゃったんだか」と思っていたのが、「よくゾ買ったっ」に大転換を遂げた一冊で。誉められたもんじゃないな自分)。
■さて、ブロドビッチと同じロシア人でも、こちらは戦前・戦後の極東・日本で芸術家・教育者として功績を残したワルワーラ・ブブノワがらみ。昭和12年、書物展望社発行の限定500部本『絵入小説・スペエドの女王』。プーシキンの原作、中山省三郎翻訳の小説には、ブブノワの挿絵10点が全て1頁使いの片面刷りで添えられています。書物展望社だけあって、造本や印刷・紙などにも趣向が凝らされています。といっても、実はこのクチ、別にもう一冊、同じくプーシキン原作、中山訳、ブブノワ挿画の『モォツアルトとサリエーリ』とともに出品されたもので、狙いはむしろ、私としては初見のこちらにありました。昭和10年・版画荘発行の『モォツアルト~』は、ブブノワの繊細な線で描かれた挿絵(高野文子風!)とそっけない造本で画像には向きませんが、ご興味のある方は是非、店頭でご覧ください。新着品はこれに留まらず、一向に片付かない本と紙のヤマに今週はさらに北村兼子の著作4冊、袱紗と絵葉書の図案見本帳 (それぞれ多色木版刷)、フランスで発行された子供のための舞台衣装デザイン集多数、プロダクト・デザイン関係資料として買ってしまった1950年代後半の『輸出雑貨ニュース』14冊、「雑書目録」用にはできれば常備しておきたいリチャード・バックル『ディアギレフ』上下揃いから始まって翻訳文学、人文科学、社会学系書物まとめて約80冊ほど、挙句の果てに稲垣足穂『一千一秒物語』『星を売る店』各々元版までもが積み上げられ。買ってしまったはいいけれど、即売会の売り上げはかくして一瞬のうちに蒸発していくのであります。これぞ「焼石に水」。昔の人はいいことをいったものです(……って何か違いやしないか)。