■遅ればせながら 残暑お見舞い申し上げます。
夏休みはいかがお過ごしでしたでしょうか。
小店はと云えば、長めにとったはずだった夏季休暇もあっという間に終わり、一昨日より店に戻って営業を再開いたしました。例え営業していたところで「暑さで誰も来ない。文字通り日照り続き。」のはずだったやすみの間のあの想定外の涼しさから一転、営業再開と足並みをそろえたかのように暑さがぶり返すこのタイミングの悪さであります。これが小店の先行きを暗示していなければいいなと切に願う休み明けとなりました。あ。しかも来月には店の契約更新が ……… ああ゛ー!!! しごとします (-_-;)
■市場にはひと足先に復帰して、本日より新着品も漸次店に入荷いたします。
本日ご案内の商品は金曜日の市場で落手したての品物より洋物2点を選びました。
1点目は壁紙の見本帖で、イギリスはロンドンにあった「WM. WOOLLAMS & CO.,」会社のもの。無刊行期ですが、ヴィクトリア様式の時代から広く愛好された植物モチーフをより大胆にデザインした図案の多さ - ここがこの見本帖最大の見所!- から見て、ヴィクトリア様式からアール・ヌーヴォーへと至る過渡期、20世紀初頭~1910年代頃のものではないかと思います。
WM. WOOLLAMS社という名前は初の御目文字、がしかしご覧の通り、大邸宅仕様としか思えない大柄もの多く (どれだけの広さの壁があれば、この柄の大きさが生かせるのか兎小屋の住民には全くイメージできない)で、これはそのへんの壁紙屋とは格が違うのではないかと思ってケンサクしてみたところ、いやはや出てくる出てくる。
かいつまんで云うと …… インテリアが一種のステータス・アイテムになったヴィクトリア朝時代、当時の富裕層に向けたラグジュアリーな壁紙メーカーとして名前が知られるようになり、1851年のロンドン万博、1855年のパリ万博に出展した頃からさらに市場を拡大。一方、当時、植物図案の緑色の部分の顔料にヒ素が使用されていたことから、ヒ素による病死者が相次いでいたなか、いち早く非ヒ素系の壁紙を製品化(どうやらあのウィリアム・モリスに先駆けて、らしい)、やがて住宅所有者の多くに熱狂的に消費されるようになった…… と云う高名な会社であり、産業史や、装飾美術・デザイン史的見地からも、すでにきちんと位置付けられているもよう。ああ。これまた全然知らなかった。
見本帖の表紙に刷り入れられた商品の文句の冒頭には、「NON-ARSENICAL」つまりヒ素を使用していないことが謳われています。ちなみに、これに続いて、「清潔で洗えます!」という売り文句も。
いまから20~30年前の頃から、日本でも「シックハウス症候群」が人口に膾炙されるようになりましたが、イギリスではすでに100年前に同じようなことが起きていたわけで、世界に先駆け産業革命を体験し、いち早く大量生産・大量消費に足を踏み込んだイギリスと、第二次世界大戦後に高度経済成長に入っていくことになった日本との間には、つい最近まで実はこれくらいの「時差」があったのかも知れません。
そんな小理屈 (-_-;) はさておき、会社設立当初は「block print」、おそらくは徹底的な手仕事でつくられていた壁紙は、時代が進むとともに石版や印刷に変わっていったようで、今回入手した見本帖では、石版とオフセッ印刷とがほぼ5対5の割合。その代わり、当時先端だったはずのエナメルコーティングや機械による深い型押しなど、新たな技法が使われている点など見所多く、何よりこの大胆なデザインと色彩感覚は一見の価値あり。これだけはキッパリ断言しておきたいと思います。
■「WM. WOOLLAMS & CO.,」で検索すると出て来るサイトで必ず強調されているのが「Luxury」という言葉でした。今週の2点目はLuxuryつながりで、いまはなきアメリカの高級自動車「パッカード」のパンフレット。無刊期ですが、調べてみたところ、1930年の頃のものであるらしい。です。
ビロードを模した高級感ある厚紙にエンブレムを入れたポートフォリオには、表紙含め全8Pの冊子と自動車本体をタイプ別のカラーリーフにした10枚 (それぞれ表に車体図、裏にインテリア関係図版と解説)が収められています。
精度の高いカラー印刷にさらに金色をふんだんに使ったまさにラグジュアリーな一冊であり、当時のモノクロ写真だけでは分からない、色彩をまとったより立体的な姿をいまに伝える資料として見ることもできそうです。
とはいえ、こちらもまた、通じる気がしない小理屈なんぞ取り除き、先ずはご覧いただければ幸いです。
■今週は他にも中原美紗緒や徳富猪一郎の姿が認められる戦前~終戦直後の写真アルバム11冊、凸版印刷活字見本帖、戦前に開催された警察関係の博覧会の記録、旧植民地の風景を描いたスケッチブック(←こっちは達者な絵) と一部ヘタ絵を含む肉筆画のひとまとまり、戦前の新聞広告秀作集などが明日店に到着の予定です。