■藪から棒なはお話しで大変恐縮ですが、日月堂はこの度、2002年から営業を続けてきた表参道から離れることにいたしました。
移転先での仕事は年明けより、年内は主に表参道での作業が続きますが、集中する移転作業に専念するため、店の営業は本日10月13日(木)・10月15日(土)の2日間、それぞれ12時より20時でお仕舞いとさせていただきます。
個別にご挨拶すべきお客様には大変心苦しい次第ですが、落ち着いたところで改めてご挨拶申し上げる心積もりでおります。
不義理を重ねての移転突入となってしまいました。
どうかご海容を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
■1996年、大田区北千束で開業した日月堂は、2002年、南青山6丁目・根津美術館前のパレス青山に移転しました。以来20年の歳月を、パレス青山の2Fを居場所としてきたことになります。両親が住み替え好きで、家族と同居していた時代には7~8年で転居を繰り返し、独立して後は転職を重ね、仕事場も変わることの多かった小店店主にとって、同じところで過ごした歳月として20年は最長であり、年齢から考えて次の移転先でこの記録を超えることはあり得ず、小店店主にとっては最長にして不倒のレコードとなるのは確実です。
■たくさんのお客様に支えられてスタートした表参道の日月堂は、古本から、エフェメラへ、一次資料へと、商品の厚みを移すにつれて、より限られたお客様に支えていただく店へと変わっていきました。「店」という機能が必ずしも必要ではない方向へと歩んできていたことになります。
昨年還暦を迎え、同級生が雇用延長へと入っていくなか、老年期に入ってからの仕事の仕方を現実味をもって考えるようになったということもあります。
今後起こるであろうことを考え併せると、ここらで身軽になっておきたい。とくにこの数年は、その思いを強くしていました。
4度目の移転となる今回は、初めて店ではなく、事務所という形態をとることにしました。ご来店ご希望の方にはアポイントを入れていただくようにお願いすることになります。
■在庫は、これまでの店の半分程度となる移転先の面積にもあうように、ぐっとスリムに、できれば半分にまで減らしたいと考えています。
これまで店頭で扱ってきた紙雑貨的な商品は、目黒のジェオグラフィカさんをはじめとする委託販売先や、年末年始・京都の恵文社さんなどの催事へ。ひねりの効いた癖のある商品・この世ににひとつだけの稀品や一次資料については自店メディアでの展開を検討している他、FRAGILE BOOKSといった個性の際立つサイトへ。事務所は多様化するチャネルに対応して、品出し・配分・発信していくための基地。移転先はそのような位置づけになるだろうと思います。
自力だけでなく、外部の方たちのお力をお借りするのもまた、老年期の備えとなるのではないかと考えています。
■さて、2023年に始動する移転先は東急目黒線「洗足」駅より徒歩2分のG-FLAT。中庭に竹林を置いた建築と、目障りなものがひとつとしてないシンプルな、そして決して広くはない室内がどこか庵を思わせて、内見した翌日には申し込みしていました。調べてみると、2009年度日本建築家協会賞、2010年度日本建築家学会作品賞を受賞している物件でした。根津美術館の竹林を借景とした表参道に続き、日月堂はどうやら竹林にご縁があるようです。
入り口を入って竹林の向こう側の角部屋。G-FLATではおそらく最も小さなワンルームが次の日月堂です。竹林には賢人がつきものですが、ひとり愚人が混じる趣向とでもいいましょうか。
愚人にとってさえ、思わず静かに仕事をしたくなるような、静かでとても気持ちの良い空間です。
できるだけ簡単に、いつでも完全撤収できるように、「仮設の空間」をキーワードとして何もつくりつけない、これまでとは対極のような空間にできればと考えています。
そして、「日月堂」の屋号のつく空間としては、おそらくこれが最後の物件となるでしょう。
■表参道の駅で地下鉄を降り、エスカレーターで地上に出ると みずほ銀行に立ち寄り、青山通りを向こう側に渡って、ISSEY、COMME des GARÇONS、PRADA、Yohji Yamamotoの並ぶ通りを根津美術館の交差点まで歩く。パレス青山の1F郵便受けをチェックした後、階段で2階へ。ベランダにフラッグを出すのが営業していることのサインになります。当たり前のように過ごしてきた日々は、実は類稀なる客人の方々に支えられてはじめて成立する特別な日々でした。
長年にわたるご愛顧と、特別なご教示に心より御礼申し上げます。本当に有難うございました。
そして、洗足で始める新しい日々にも、変わらぬご加護を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
■新着品のご案内は、入荷した商品次第ですが、年内も折をみてご紹介できればと思います。
今週の新着品はオリジナルのコラージュ作品。作家であるカール・ワルドマンについては専用のサイトがありました。
それによれば、ワルドマンはいまから約30年前とごく最近、ベルリンの壁崩壊後にコラージュとフォトモンタージュを中心とした1,200点の作品によって再発見された作家だといいます。
「構成主義の最近の発見の一つであり、間違いなく非常に重要な発見である。ドイツ・ロシアのアヴァンギャルドに連なるアーティストで、その作品はおそらく1930年から1958年までの期間に制作された。
彼の人生や人柄については、今のところほとんどわかっていない。」
ご興味の向きには、下記のページに出てくる英文をそのままdeepl翻訳にコピペしてみて下さい。いまどき珍しく、これから冒険のし甲斐のある未踏の大陸のような作家です。
Karl Waldmann Museum
http://www.karlwaldmannmuseum.com/fr/index.html
こんなのも見つかりました。
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-19652009/
K.W.の署名、裏面にハンコあり。小店にとっては今年一番の稀品であり珍品であり、もしかしたら優品なのかも知れません。