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17/09/02 都市という空間で -「生きた広告博覧会」と「都市美強調週間」と

■暑かったかと思えば急激に涼しくなったり、売れるゾと思ったものが売れずにこれは難しいかなと思ったものが売れたりしながら一週間は瞬く間に過ぎ、今週もまた新着品のご案内です。
函と表紙の平、そして本文巻頭に日本初・東洋初のロボット「学天則」の写真が象徴的に置かれているのは『生きた広告博美術写真展』と題された博覧会の図録兼啓蒙的かつ実用的な書物。
巻頭言によれば、1931年=昭和6年、東京日日新聞と大阪毎日新聞の主催により、上野松坂屋で開催され、「入場者数実に百二十万人」にのぼったと云う「生きた広告博覧会」を記録したもので、しかし、単に記録に留まらず、広告に関心を寄せる人たちの参考になるよう、参考篇を附したと云います。
「生きた広告」と題し、学天則をキャラクター的使っているのを見ると、生きた=機械仕掛けのオブジェやネオン- いまならゆるキャラ? -といったものかと思えばさにあらず。ウィンドーディスプレイや店頭装飾、ネオンサインやポスターなど、開かれた空間における生きた=効果的な広告の実例を、花王石鹸や明治製菓、味の素、大日本麦酒、カルピス、凸版印刷、小西六他、有名一流企業に立案・設営・展示させた本格的な博覧会だったようで、それぞれ自社内の広告セクションや、「ニッケ」の奥山儀八郎などの著名デザイナーによるものです。
書籍のノドや小口ぎりぎりの位置にとにかく小さな活字で組まれたテキスト、余白をたっぷりとった図版の配置など、この本に似た洋書があったと思うのだけれど、何だったかなと思いながらページを繰っていたところ、巻末の附録「ショーウィンドの知識」の出典クレジットに答えを発見しました。フレデリック・キースラーの著書『Contenporary art applied to the store』! 
このタイトルと著者名「Frederick Kiesler」を検索窓にコピペして画像検索するとすぐに出てきてお分かりいただけるかと思いますが、なかなかカッコいい本です。キースラーは建築家で、山口勝弘が『環境芸術家キースラー』を著したりしているのですが、日本では有名になり損ねている気がします。
表参道に移転してきた当時なので2002~2003年頃だったか、一度この『Contamporary~』を市場で仕入れたことがあり、記憶の限りではありますが、『生きた~』の巻末に添えられた「参考篇」のテキストと図版は、ほぼ『Contemporary~』からそのまま引用されているように思われます。
『Contenporary~』は落札した時は、内容もデザインも優れた本に大喜びしたと云うのに、売るのには苦労したし、以来15年、少なくとも私はまだ他に見たことがなかったので、日本では発行当時からしてほとんど関心を向けられていなかったのではないかと思っていたのですが、この博覧会が、おそらくはそのコンセプトから当書に依拠している印象が強く、やはり一定の影響をもたらしていたのではないかと考え直した次第です。こむずかしいお話しはさておき、諧調美しい「学天則」の写真だけでも貴重な1冊。
 

『生きた広告博美術写真展』もそうでしたが、こちらも初見でした。都市美協会が発行する機関誌『都市美』。落手したのは昭和11年10月発行の17号で、「都市美化強調週間号」と何やらものものしい副題のついた号です。
早速ぐぐってみました。都市美研究会は、関東大震災後の 1925(大正 14)年 10 月、「復興帝都における美観統制並に整斉ある都市構築の研究」を目的として設立された都市美研究会が翌年に改称、阪谷芳郎(第 4 代東京市長)を初代会長に会員は300名を数え、『都市美』の発行や講演会などを開催していたと云います。
研究会発足当時の「研究題目には丸ビル撤廃論、品川台場利用論等が見られる。」(https://www.timr.or.jp/library/docs/kuranonaka/lib016.pdf)とあり、創立当初はラジカルな側面を持っていたのではと期待させられるのですが、36年頃には「紀元2600年に備えよ」by内務大臣 だとか「帝都の都市美観を護れ」by警視総監とか、すっかり体制側の組み入れられた様子が伺えます。
図版は「都市美強調週間」の活動の一環として行われた「都市美並都市醜写真検証募集」の入選作品。審査員は板垣鷹穂と木村伊兵衛を含む6名。「美」だけでなく、あえて(?)「醜」の部分まで対象とした点がユニークです。当誌の掲載の他、銀座三越で展覧会が開催されたようで、本気ぶりがうかがえます。
「都市美強調週間」では、この他、街路や公園、河川の清掃や小学校での訓話などが行われたようで、詳細をという方はこの1冊を是非。と云って売れるようなら古本屋、労苦はぐっと軽くなるのですがさて。
 
■それにしても もう9月です。来週には次回、つまり来年1月開催の、「銀座 古書の市」についての松屋銀座さんとの打ち合わせが始まります。11月半ばにはやってくるはずの目録原稿入稿に向けて、小店もそろそろ掲載商品の目星を付けていくことになります。来年の準備です。この1年もまた、手をつけられない速さで過ぎていくことになりそうです。あ。昨年11月以降に入荷したもので、気になるものがあるという方はお早目にお声をおかけ下さい。
 

 

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