■ウィーンとプラハへの旅を終えて、本日10月13日(土)より店の営業を再開いたします。
旅行中はお陰さまで天候にも恵まれ、連日1万5千歩から2万5千歩を歩き倒しました。
仕事の本命はウィーンで毎週土曜日に開かれる蚤の市。規模はパリのヴァンプ1.5倍ほどありそうな大規模なものでしたが、買えたのは傘・ステッキ専用の壁面設置型のスタンド(珍品ですがそれにしても) ひとつきり。ここまで何も買うものがない蚤の市はパリのモントルイユ以来のことです。30年前に一度訪ねた折には、手の込んだ仕事が残る古い民俗衣装、アール・デコ当時のカップ&ソーサー、ガラス器、銀器などからデッドストックの手芸用品、テディベア専門店まで、見ているだけでそれはもう楽しい蚤の市だったのが、その時何点か買ったものはいまも大事にとってあるというのに、いやはや何ともここまで何もなくなるものか……と がっくりきたのが旅のまだ2日目のこと。今回、ここ一ヶ所狙いだっただけに仕事運はないものと腹をくくった次第です。
ウィーンでは蚤の市におけるかくなる大誤算をはじめ、ブランド街へと様変わりしたシュテファン寺院周辺の変貌に驚き、プラハでは、分離派から19世紀末建築を経てアール・ヌーヴォー、アール・デコへ、或いはキュビズムへ、モダニズムへと連なる建築物が、ここ数百年そう大きな変化はなかったのではないかと思われる古い古い街並みのそこここに紛れてあるさまに瞠目しました。
結果、撮りに撮ったりほぼ全て建築物の画像ばかり484点。旅の成果はどこをどう振ってもそれだけ。折角なので今後InstagramとFacebookにアップしていく予定です。ご興味あればご笑覧下さい。
長らくの休みでご不便をおかけいたしましたが、ここからは来年1月の即売会の用意も始まり店に腰を据えての仕事となります。みなさまへは、またのご来店をよろしくお願い申し上げます。
■ウィーンの蚤の市のあまりの空振りにすっかり戦意喪失、「仕事より旅」「古本屋は立ち寄りはするも長居はせず」を基本方針に過ごした結果、古書店で買ってきたのは僅かに3点。
ひとつはBrnoで開催された博覧会の絵葉書1枚、そして下記の本2冊。渡航して買ってきた数がここまで少ないのも帰りのスーツケースが20kgを切ってたったの16kgだったのも、古本屋になって以来初めてですが、これは、日本では入手困難なもの、二度と入手が叶わないと思われるものに厳選した結果でもある……はずなのですがすが さて ?
■前置きが長くなりました。実は時差ボケで突然襲ってくる猛烈な眠気と戦いながらの作業になっており、ご紹介のためのリサーチにあたまが追いついていない証左でもあります。
いや待てよ。少なくとも小店HPを必ずチェックして下さっている方であれば自力で、私なんぞを遥かに凌ぎ重要な情報にたどり着いてしまわれるのに。つまりは悪あがきとしか思えない作業を延々続けているのだということに今になって気づきました。噫、もっと早く気がついていれば… 。
それはさておき。どちらも1920年代のチェコ・アヴァンギャルドを代表する潮流のひとつ「ポエティズム」に関わる書籍と見られます。
■1点目は、『s lodi jez dovazi caja a kavu』(=『お茶とコーヒーを運ぶ船とともに』)。1920年代、チェコで独自の展開を見せていた前衛芸術運動「ポエティズム」に参加していたコンスタンティン・ビエブルの詩集で1928年に発行されました。
ご覧のような装丁ですので、一見して「ややや!これは!?」 と思うのは当然として、頁を開いて唸りました。後で調べてみると(もっとも海外の同業者の売文句ではありますが) この時代のチェコを代表する本のひとつとされているようです。
それも当然、やはり同グループに加わっていたカレル・タイゲが表紙、扉から1P大の挿画的なものまで、色面構成による視覚表現全てと、組版など書籍のトータルデザインを手掛けたもの。1頁大の図版5点、全体及び各章扉6点、全てモノクロとピンク色の2色で構成されており、図版部分はリトグラフのようにも見えます。中面極美。もちろんのこと、小店としては初めての扱いとなります。
■もう1冊はラインナップにブルノやヴィーチェスラフ・ネズヴァルの名前も並ぶ「EDICE OLYMP」と題された前衛芸術系の叢書の第6冊目として出版されたもので、E.F.ブリアンの詩集『IDIOTEON』。1926年に限定550部発行した内の1冊。
E.F.ブリアン=エミル・フランチシェク・ブリアンはプラハの音楽院に進みながらダダと未来派の影響を受け、卒業後は主に演劇を主軸に活動。戦中はダッハウの収容所に収容されたり、客船に乗れば沈没したりしながら戦後まで永らえ、チェコの現代演劇に強い影響を与えたと云われます。がしかし、テキストが読めない限り、この本についていえば肝は全てこの表紙にあり ! ARCHITEKTA HALVACKA (アルヒテクチ・ハルヴァチェク?)による書籍設計はカレル・タイゲのようにはいかなかったようで中面は単調かつ少々泥臭い印象も。仕事が残り、名前が轟く作家にはちゃんとワケがあるのだなと、この2冊を並べてそんなことを思いました。
■正真正銘買ってきた本はこの2冊だけ。時差ボケだし。午前3時を過ぎる頃にすっかり眠気は失せてしまうし。明日からの営業再開しても居眠りしてそうだし。正直、旅よりスリリングな日常がまた小店店主を待っているのでした。(いやでも つづく)