19/07/27
土
前衛落穂拾い - 実験工房・現代音楽・モダンダンスのエフェメラと機関紙誌
■久しぶりに実験工房に関連する印刷物が入荷しました。
画像1点目のうち向かって左、表紙に『EXPERIMENTAL WORKSHOP』とあるのは、①1952(昭和27)年8月に開催された「実験工房第4回発表会」のパンフレットです。
展覧会図録『実験工房-戦後芸術を切り拓く』(2013年、神奈川県立近代美術館 P80)の記載によれば、副題を「園田高弘渡欧記念 現代作品演奏会」とするこの発表会は、そのタイトル通り、実験工房のメンバーだった園田をジュネーヴ国際音楽コンクールに送り出すにあたって開催されたもの。同じく実験工房のメンバーだった武満徹、湯浅譲二の初演曲を含む「ピアノ曲のみが9曲集められ」たとあります。
パンフレットは本文8P。巻頭に園田と実験工房それぞれの挨拶文を置き、演奏曲目と演奏者名等を英語・日本語で各1P、残り5Pを瀧口、園田、武満、湯浅ほか、北代省三、駒井哲郎、山口勝弘、鈴木博義、福島秀子、今井直次、秋山邦晴という実験工房総勢11名による座談会が占めています。
■引き続き画像1点目、今度は向かって右側です。②「オーケストラル・スペースを励ます会」の専用封筒、挨拶状、フライヤー、返信ハガキの全4点。フライヤーは目にしたことのある方も多いかと思いますが、まさか「励ます会」などというものがあったとは、この印刷物が出てこなければ想像することもなかったと思います。
「励ます会」は1966年5月4日に開催が予定されており、発起人には実験工房の瀧口、秋山の他、音楽界から芥川也寸志、吉田秀和、美術の岡本太郎、勅使河原宏、サム・フランシスに建築家・丹下健三が、意外なことに文学者が最も多く、安部公房、石原慎太郎、大江健三郎に三島由紀夫の名前も!
この人脈はもしや…? と見れば、生涯黒子に徹した印象の強いこの人としては珍しく、海藤日出男もここでは発起人に名前を連ねると同時に、返信ハガキの宛先が「港区……… 小松ビル 海藤日出男内 オーケストラル・スペースを励ます会・発起人行」。
「励ます会」ではオーケストラル・スペースを企画・構成した武満徹と一柳慧を激励するとともに、コンサートに参加するクセナキス、高橋悠治、小沢征爾の歓迎してのパーティーを兼ねた模様 …… といった細部まで分かる珍品実はこういうのが一番手元に残しておきたくなる。という性格のエフェメラです。
■またまた続いて画像1点目、真ん中の縦長の1枚③は1958(昭和33)年に新宿コマ劇場で開催された「3人の会」の告知用印刷物。二折り両面印刷で、団伊玖磨、芥川也寸志、黛敏郎3人がそれぞれ作曲した交響曲1曲ずつをN響が演奏。客演指揮として岩城宏之の名前がクレジットされています。
「3人の会」は1954年に結成、1962年までに5回の演奏会を開催。この印刷物は第3回の時のもの。状態にやや難がありますが、こちらもまた珍品かと。
■先週は戦後の舞踊←→舞踏関係でしたが、今週は戦前の新しい舞踊の潮流に、石井獏と並んで大きな足跡を残した江口隆哉と宮操子に関する印刷物が入荷しています。
江口と宮は1930年代にドイツのマリー・ウィグマン舞踊学校でノイエ・タンツを学び、帰国後「江口・宮舞踊研究所」を開設。①『新興舞踊』はこの研究所を発行元とする機関紙で、昭和11(1936)年発行の第11号と12号が入荷。同研究所にとっても「大作」とされる群舞"都会"のフォトモンタージュを表紙に配した12号は増頁号で、深井史郎「都会の作曲」三林亮太郎「群舞都会舞台装置」を掲載。
②「江口隆哉・宮操子 群舞公演」のプログラム(大阪、京都、名古屋公演)の表紙も"都会"のフォトモンタージと見られ、表4には新聞社の輪転機、職業紹介所、株式取引所などをモチーフとした"都会"全9景の解説を掲載。この公演では、機関紙12号で自ら作品に関する所感を記した江文也作曲による「一人と六人」等全12演目が上演されたようで、タイトルの他、それぞれ作曲者名、出演者名、演奏者名が記されています。
③ブロマイドは3枚で、江口と宮それぞれのブロマイドはサイン入り。
以上6点は一括での販売となります。
■雑誌『とりで』は江口隆哉・宮操子関係と一緒に市場に出品されたもので、旧蔵者は研究者かよほどの舞踊 或いは舞台芸術の愛好家と見られます。
さて、『とりで』ですが、かねてより名前は知りながら長年出会えぬまま、ようやく現品を手にすることができました。
この雑誌の重要性については『ダンス!20世紀初頭の美術と舞踊 』展の図録(2003年)のP23~25 及び P80~82 を是非お読み下さい。大正時代初頭の日本とヨーロッパとの距離感、情報伝達のスピード感、そして日本の若者と欧州知識人とがもっていた同時代性など、いまフツーに頭に思い浮かべる像ががらりと書き換えられるに違いありません。
若人よ大志を抱け! さらば扉は開かれん!! ビックリ!!!