■コロナこのかた、店でも自宅でも、ゴミ収集所に積みあがるダンボール箱の量を見るにつけ、梱包資材業界の活況を思うこの1年。だから、というわけではありませんが、『パッキングケース』なる冊子に目がとまりました。
表紙と本文ページ内のこの過剰なグラフィック表現!
映画『伯林大都会交響楽』のパンフレットに駆使されたフォト・モンタージュや雑誌『犯罪科学』誌上、板垣鷹穂・堀野正雄の名コンビが展開したグラフ・モンタージュにも通じるアヴァンギャルドな表現に驚きました。
また、枡形に近い判型は、1920~30年代に発行されたロシア絵本を思わせます。ロシア絵本のなかでも実験的な写真絵本を下敷きに、花王がつくったPR出版物『コレハ何デセウ』のことなども思い出したり。
これは"日本で初めて段ボール事業を創始"した「聯合紙器株式会社(現 レンゴー)」が発行した企業並びに製品案内の小冊子で、「工場所在地」に昭和10(1935)年開設の「京城」が記載されていることから、1930年代に発行されたものと見られます。ちなみに映画「伯林~」の公開が1927年、『犯罪科学』での板垣・堀野のグラフ・モンタージュは1931~32年にかけてのことでした。
さて、『パッキングケース』ですが、「産業躍進!輸出振興!は我国現下の重要問題」として、木箱より軽いので運賃を軽減、容積を減らして内容量を1割以上増量するとともに置場を節約、内容物の抜き取りを防止し破損も減少、定量販売に適して再包装の必要なし…等々、ダンボールを使った梱包・包装のもつ時代にマッチした利点をひとつひとつ挙げていきます。
縷々述べられる木箱と比べた時のメリットには、これまで気付かずにいた点も多く、いまや日常品となったダンボールがいかに便利で優秀なものだったか思わず見直すことになりました。
それはさておき。
なるほど、1930年代当時、大量消費社会の到来、輸出入をはじめとする物流の拡大を背景に、包装や梱包は先端技術産業のひとつとなっていたとしても不思議はなく、尖端産業には常に優れた表現=デザインがつきものだというのはご存じの通り。見れば日魯の冷凍鮭、紀州みかん、青森りんごから福助足袋、ニッケ、仁丹体温計、ビスコ、マツダランプ、果てはフランス向蟹缶詰ケース、米国向陶磁器用ケースまで、なんでも・どこまでも・安心して送れる技術と、いつ・どこに出しても恥ずかしくないデザインと堅牢さをもつダンボールは、時代の尖端へと踊り出ていたようです。
聯合紙器は現在レンゴーとして着実に発展を遂げているのみならず、SDGsが最重要視される21世紀、再び時代の先端へと飛び出す用意はできている様子。1909年聯合紙器創業には、今年の大河ドラマの主人公・渋沢栄一が関わっていたとも。
『パッキングケース』というこの冊子、実は極めて2021年的なのかも知れません。
■今週2点目は小店としては非常に珍しく現代ものからのご紹介。現代ものといってもエッフェル塔100年にあたる1989年のポスター6種10余点。図版はそのうちの1点で、建築写真家によるエッフェル塔のフォト・モンタージュで1点は写真家の署名入りです。
エッフェル塔の完成は1889年のこと。聯合紙器の創業はエッフェル塔完成から丁度20年後だったことになります。鉄と紙という対照的な素材ですが、フォト・モンタージュにしてみると実は構造的にとても似ていることが分かります。
左斜め上の画像も今回入荷したエッフェル塔のポスターであちらは少し小さいサイズ。
■2021年2月12日(金)、日本に初めてコロナウイルスのワクチンが到着しました。ファイザー社製、約40万回分だとの報道です。
少しずつ不穏な空気が色濃くなりはじめてはいたものの、去年の今頃はまだ、海外が数年単位で遠ざかることになるとは予想もしていなかったことを思い出します。
ゼロ年代、パリには毎年のように出かけながら、いまだエッフェル塔には登ったことがありません。塔上からパリを一望に見下ろすことができる日は、さて、いつのことになるのでしょう。
東京の感染者数の急激な減少にトリックは一切ないのか。指針となるものがどこにも見当たらない日本では、自衛しかないなと思います。みなさまどうかくれぐれもご用心を!