■先週は週の後半から新潟出張~市場~カーゴ8台分仕分け~出品というスケジュールが続き、『少年ジャンプ』創刊号・美本1冊やSDガンダム未組立品美品の落札価格に仰天しつつ(お買い上げ下さいましたこご同業のみなさま有難うございました)、店はほぼ休業状態となりましたが、今週より通常営業の店に戻りました。今週・来週はHPの更新も復活です。
久しくご無沙汰続きだった戦前の包装紙がいくらかまとまって入荷いたしました。なかなか筋の良いラインナップです。
「銀座 丸ビル 伊東屋」茶色と白の各1枚と小さい紙袋1点、「東京神田 三省堂」1枚、「東京市日本橋区 丸善株式会社」1枚、「合弁会社冨山房本店」1枚、「神田駿河台下 文房堂」1枚、「三越」4種10枚と小さい紙袋1点、「伊勢丹」2種3枚、「東京銀座 松屋」1枚と小さい紙袋1点、「マツサカヤ」4種7枚、その他「宮内省御用達 鳩居堂」「舶来美術品雑貨商 フタバ商店」「麻布天現寺橋際 街書店」「アルバム・文房具 神田 鶴屋」「日本諸名士肖像写真 亜細亜風物写真 機山閣書店」など。「機山閣書店」の包装紙には扱い商品が記載されているのですが、これがなかなか興味深くて…といったあたりは店頭でご覧いただくとして、本日の画像に選んだのは日本橋にあった百貨店「白木屋」の包装紙。入荷したの包装紙4種5枚と小さい紙袋1点で画像は重複分1点をのぞいたもの。
包装紙はゼロ年代には扱い初めていたように思うのですが、長年みてきた包装紙でも個人的な好みで一二を争うのが幾何学的描線で構成された白木屋の包装紙(画像中にあるオレンジとブルーの2種類)です。
日本橋にあった百貨店・白木屋といえば、キモノの下に下着をつけていなかったばかりにビルから飛び降りることができなかった女性ちが焼死したというエピソードで知られますが、その時焼けた建物というのが、いまもモダニズム建築の代表作として知られる石本喜久治設計の近代ビル。包装紙のなかにも建物の外観が描かれていますが、そうした部分ではなく、むしろこの包装紙全体が、モダニズム建築の設計図にも似た、象徴的なデザインとなっています。
石本の設計による白木屋の竣工は第一期が1928(昭和3)年、第二期が1931(昭和6)年。そして、その印象的なファサードから炎と黒煙が噴き出すことになる火災は第二期竣工の翌1932年のこと。従って、この包装紙が使われていた期間は短ければ1年弱、長くてせいぜい3年ほどのことになります。
設計を手掛けることになった石本喜久治は「分離派建築建築会」を立ち上げたモダン建築の旗手。私邸設計ではカーテンやカーペットのデザインまで手掛けた例もあり、或いはこの包装紙をデザインしたのも石本だったのかも知れません。少なくとも「モダニズムを代表する包装紙」のひとつである。と、小店店主、ひとりで力説しておりますがさて…。
■今週入荷した包装紙の中には新宿伊勢丹のものもありましたが、戦後の高度成長期を迎えた時代の伊勢丹前の交差点から、いまABCマートのあたりまでの歩行者天国で繰り広げられた宮下省死の暗黒舞踏の写真がまとまって入荷しました。
新宿で歩行者天国がスタートしたのが1970(昭和45)年。今回入荷した写真と一緒に出てきた公演のチラシ『宮下省死氏舞踊会 彗星遊び』が1972(昭和47)年。パフォーマンスが行われたのは1970年代初めの頃のものとみてよさそうです。
ちなみに、チラシの表記「舞踊会」は元ママ。「舞踏」としていないのがちょっと不思議ですが、宮下が、土方巽が命名した鼠派演踏鑑を旗揚げしたのが1975年だったことと関係しているのかも知れません。
実のところ、小店店主にとって、もっとも難解でなかなか理解できないのが暗黒舞踏という分野。この写真を買う気になったのは、宮下の動きと表情を濃やかにすくい上げているのはもちろんのこと、70年代初頭の新宿という劇的な、非日常の都市の空気を細部まで写しとっているようにみえたからでした。
歩行者天国の道沿いにはまだ三越があり、ビル袖にはいまはもうない鈴屋の看板が掲げられ、休日の若者やカップル、家族連れがパフォーマンスを取り囲むその風景は、小店店主がまだ小学生だった頃にながめていた新宿の姿そのものであり、或いはこの群衆のなかに50年前の自分と家族が写っているのではないかという気がしてきます。
宮下の衣裳から、2回のパフォーマンスを撮影した2Lサイズのモノクロ写真124枚に、1972年に千代田会館で開催された「宮下省死氏舞踊会 彗星遊び」の色違いのちらし4枚、チケット1枚をつけた一括での販売を予定しております(チケットの雑駁なコラージュに時代を感じます)。
尚、「舞踊会」には「吹奏 阿部薫」とのクレジットあり。もちろんあの伝説のサックスプレイヤーその人。
■今週の斜め読みから。選挙の前に考えておきましょう。
賃金と物価について端的に → こちらへ。
新しい精神をもって世界を変えたまえ! → こちらへ。