■先週から続いていた症状は風邪ではなく、どうやら今年、私も花粉症デビューとなったようです。同様に続いていた漠然とした筋肉の痛みは、ご蔵書をお預かりする作業を終えた月曜、俄然、輪郭のある痛みに変わり、病院に駆け込んだところ肋骨骨折と判明…はっはっはっ。と笑うと依然痛みはあるものの、来週も火・木・土曜の各日12時~20時で営業いたします。命に別状のあるわけでもなし、お客様にうつす恐れもなくなりました。これで安心というものです。 ■その重さに肋骨で負けて、大判美術書の類は全て腰砕けで落札できず。一方、有難いことに久しぶりに紙モノの面白いコレクションが出品されていました。捨てるカミあれば拾う「紙」あり。「酒・ビール・醤油等ラベル集」、「戦前広告貼込帖」、「戦前洋画スクラップ帖」は風俗資料の趣さえあるこだわりの4冊、「大正期紙モノ貼込帖」は飲料・化粧品・文具から日本郵船関係まで珠玉の1冊等々、久しぶりに紙モノがまとまって手に入りました。今週の新着品最初はそうした一連のコレクションから「煙草パッケージ・コレクション」のごく一部です。おなじみの国産煙草「ゴールデン・バット」や「光」から、ロンドンと会社名が記された所謂“洋モク”まで、戦前内外の約60点には、日本の「東亜煙草」やイギリスの「CHI TUNG TABACCO」、中国の「HWA CHING TOBACCO」をはじめ、「KYOWA TOBACCO」「WHA SUN CIGARETTES」など、いかにも戦前の大陸製を思わせるもの多数。それらに顕著に表れたあざやかな色彩と、洗練されたアール・デコ様式のデザインは、当時の上海に代表される国際的モダン都市のもっていた“都市の感性”の産物なのかも知れません。“珠玉”と申しました「大正期~」など、整理に多少時間を要するものもありますが、可及的速やかに店頭でご紹介いたします。
■厚冊は買えずとも薄冊であれば肋骨にもやさしく、続く新着品は『バジル大佐のバレエ・リュス 1937-1938 第5回アメリカン・シーズン(COL.W.de BASIL’S BALLETS RUSSES 1937-1938 5t American Season)』、つまりディアギレフ亡き後、バレエ・リュス再建を目指したバジル大佐率いる「バレエ・リュス・ド・モンテカルロ」のアメリカ・ツアーのパンフレット。全頁アート紙、舞台美術・衣裳はカラーグラビア、出演者のスチール写真はフォト・モンタージュを駆使するなど、贅沢な72P。舞台美術はゴンチャロワの「コック・ドール」をメインにミロが手掛けた作品などがあり、舞台衣裳はバクストの作品を引き継いでいる他、セシル・ビートンの名前も見られ、確かにディアギレフの継承者らしい結構も整っているようです。さて、昨年日本公開のドキュメンタリー映画「バレエ・リュス 踊る歓び、生きる歓び」のパンフレットを徐に取り出して見れば、この公演の当時、成功を収めていたバレエ団内には軋轢が生まれ、レオニード・マシーンが独立を画策。大佐とマシーンは「バレエ・リュス・ド・モンテ・カルロ」の名称をめぐって裁判となり、その結果、1937年に「バジル大佐は同名称を使えなくな」り、また、アメリカでの興行を取り仕切っていたヒューロックは、「マシーンのバレエ団だけと米国公演を契約」とあります。で、現品を確かめてみると「S.HUROK presents」、そして小さく控えめにしかも括弧付きながら「 (de Monte-Carlo) 」と記載されています。とするとこの公演パンフレット……いまのところ係争中の見切り発車か混乱の中で作られたものと推測しています。ということもあって、このパンフレットからとった画像の内、肖像写真の三人は、左から係争の中心にあったバジル大佐、マシーン、大佐がマシーンの後釜に据えたデヴィド・リシーンという因縁の顔ぶれにしてみました。この三人が同居する公演パンフレットは、多分これが最初で最後ではなかったかと。ディアギレフのロシア・バレエは、かくして正嫡を失いました。と、コトはそう簡単に終わらないところがバレエ・リュス=大芸術の所以なのですが、肋骨骨折の関係上そろそろ筆を擱くことにして、この後の詳細についてお知りになりたい方は、すでに触れたドキュメンタリー映画でご確認ください。 ■そろそろある程度まとまっての入手を諦めるべきなのか…一縷の望みを託しつつ、引き続き大正年間から1980年までに発行された『黒髪』『新美容』『しんびよう』『美容師の友』『TOMOTOMO』と、『しんびよう』の付録『しんびようプラス』と『みわく』をご所有の方、お心当たりのある方の情報をお待ちいたしております。ご同業の皆様含め、何卒よろしくお願いいたします。