■咳はまだしも、クシャミはまだ少々肋骨に響きますが、このままいけばコルセットが外せそうな気がする来週も、店は火・木・土曜の各日12時~20時で営業いたします。肋骨骨折の後は…今年デビューとなった花粉症がオソロシイ。 ■今週の新着品、いつも通っている金曜日の「明治古典会」の分は店頭に出せるまで少し時間がかかりそう(落丁確認に紙モノ整理…)なので、先ずは月曜日に開催された「中央市会大市」の落札品から。タテ書きのタイトルがなければバウハウスの教科書か、はたまたモンドリアンもどきの作品かと見紛いそうな上の画像は、和田三造編纂による『配色総鑑』。布装のタトウに昭和8年から9年にかけて発行された経本仕立ての冊子6冊、付録2点、そして非売品の解説冊子が収められた揃い一組。二色、三色、四色の組み合わせによる配色を各々2冊で展開、提案されている配色を全部合わせると実に348パターンにのぼり、これ全て和田三造先生創案によるもの。また、色の部分は直刷りではなく、一色刷り(おそらく石版)の後に切り抜き、台紙に貼り付けたものであります。考えた人ももちろんですが、色を調整した人も切った人も貼り付けた人も、みなさん本当によくやった。と誉めてあげたくなる実に丁寧な仕事。人の頭と人の手とを使った仕事の密度の濃さ、失敗の許されない緊張感、そこに費やされたたくさんの時間。古いもの、実体のあるものから時に感じる「重み」というのは、こうした要素で構成されているのではないかと考えさせられます。色見本といえば即座に印刷用を思い浮かべるいまと違い、印刷界ではカラー刷がまだ主流ではなかった当時、色見本はファッションやディスプレイ・デザイン、インテリアやエクステリアなどに活用されたようです。私たちが見ることのできる当時のこうした風俗は、写真にせよ雑誌等のグラビアなどにせよ残念ながらほとんどが「モノクロの世界」に閉じ込められています。『色彩総鑑』は、当時日本人が身を置いていた風景に色を加えてくれる、ひとつの手掛かりといえるかも知れません。今週ご来店下さったお客様で、いつもHPをご覧くださっている方から、「見本帖を手に入れた時ってホンっトに嬉しそうですよね」とご指摘を受けました。云われてみると確かに。しかしよくよく考えてみると、小店が仕入れているものは品筋から予算の関係で買える範囲まで、全て自分本位以外の何ものでもなく……次の新着品なんぞ、もはやその極北といえそうで。
■板垣鷹穂著『優秀船の芸術社会学的分析』、昭和5年発行の初版本。この7年、一度は手にしなければと思いながら、決してまみえることのなかった本を、ようやく落手することができました。この間にももちろんチャンスはありました。他店さんの目録に二度、出ているのを見ていますし、私が行かなかった市場で少なくとも二度、出たと聞いています。しかも、相当無理をしないと買えないという額でもありません。私の、この眼前に、情報としてではなく「実体」として、出てくることがなかったのです。2001年のこと、日本における機械美の提唱者・板垣鷹穂を伴走者に据えて、私は20世紀初頭から戦前の都市と文化をテーマとする自店目録をつくりました。一年半をかけて板垣の主著を読み、板垣の視線を借りて本を集め、しかし板垣の著書のなかでも最も注目すべきこの本を、この目録に収めることはできませんでした。瑕疵多く、力不足を露呈するばかりの目録でしたが、なかでもこの一点は悔やまれてなりませんでした。以来、一度は必ず自らの手にしなければならないと思い続けてきた本です。このような場合、落札は自己満足でしかなく、付言さえもはや余計な気もしますが、古本屋らしい格好だけは整えておくと…本を構成するのはテキスト181Pと巻頭に置かれたグラビア82P。テキストは板垣の論考を中心に、グラビア撮影を担当した堀野正雄のレポート、秩父丸をスケッチした小山敬三の所感を収めています。巻頭グラビアは堀野正雄による写真を多数含んでおり、コロンブス号、浅間丸、秩父丸等それらの写真は、板垣の理想案に沿って堀野正雄が自ら“実験”と呼ぶ試行錯誤の末に撮影、さらに板垣によるトリミングを施して配置されたものです。つくづく、良い本だと思います。というのもまた自己満足であり。極北の地からあと一歩踏み出すと人は一体どうなるのでしょうか。地球からこぼれ落ちるとか。地球の角にぶつけて再び肋骨が折れるとか。 例え陸地があったとしても食べるものはないとか。……「アっああぁーー…」という声を残し、やがてそれさえフェイドアウトして。辺りに、そして私の上にも、静寂が訪れるのならばそれもまた良し。 ■雑書目録、今週アップしてみると、やはり新しいところから動く傾向があります。「雑書目録」は来週も人文・翻訳関係で引き続き残りをアップしていく予定、お見逃しなく!美容関係の探求書も引き続き探しております。もはや藁をも縋る思い。こちらも何卒よろしくお願いいたします。