■来週半ばまでに移動させるのを目標に、只今店内、「町工場」展の在庫品整理で古本屋とは思えぬ様相を呈しておりますがしかし。店は来週も火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたしますので、皆様にはご来店のほど御願い奉ります。 ■単行本や雑誌などをおよそ30~45cmくらいの長さで紐で縛り、それを1本から複数本一緒に市場に出品されたのを指して古本屋は「本口(ほんぐち)」と呼びます。いま手元にある昨日の落札品一覧から数量を示す部分を抜書きすると…1本口、3本口、2本口、2本口、1本口、1冊、5冊、2本口、2冊…そうです。今週落札したのはほとんどが「本口」。この内「1冊」とあるのは当新着情報に相応しく込み入った説明を要するのですが、何しろ厚さ約8cm・鉄製ビス留めとあってその重量から持ち帰るのにビビり(今年は疲労骨折もありましたし)、「5冊」は雑誌『domus』の1950年代発行分の“合本” でこちらもやはり非情な重さ、「2冊」は基本図書のようなもの、あとは白っぽいところ・黒っぽいところいずれも長い説明など要するまでもなく。「どうするよ。新着品。」(古本屋なんですからね。「本」を買うのはとーぜんでしょう。なのにそのとーぜんに困るというのは一体何だ。)というわけで。今週の新着品は少しの間自宅で出番を待っておりました“珍品”を代打に起用いたしまして先ず最初。『EXPOSITION DES ARTISTES JAPONAIS 日本美術展覧会』は1957年、パリのギャラリーで開催された日本美術に関する展覧会の目録です。名誉会員にはジャン・コクトー、ジャン・カスー、藤田嗣治、古垣鉄郎ら、実行委員会には浜口陽三、荻須高徳、堂本尚郎らの名前が並び、中途半端な展覧会ではなかったであろうことを思わせます。仏文のリストによれば「平面」で今井俊満、桂ユキ子、野見山暁治、荻須など55名92作、「版画」で長谷川潔、浜口、南桂子の8作品、「彫刻」「書」をあわせると全107点の作品が出品されています。また、古垣、藤田、コクトーは招待作家として出品もしたようです。序文は古垣、彼の地では「SATOMI」で充分名前の通っていた里見宗治が表紙を担当しています。日本美術といってもありがちな古美術・浮世絵に非ず、むしろ当時の日本の先端・前衛もしくは気鋭の新人を紹介しようと目論んだものらしいことは一目瞭然といえるでしょう。敗戦後わずか7年で、世界の美術の動きに遅れることなく前進していた若き芸術家たち、それを支えた人たちの気概には、どこか感動を覚えます。日本の芸術家たちが憧れてやまなかったパリで開催されたこの展覧会が、日本の若い作家たちに、フランスの美術批評家や愛好家たちに、果たしてどのように受け止められたのか。少なくとも当時すでにパリの日本人美術家たちと親密に交流していた(個人的に最近俄かに興味をもつに至った)海藤日出男あたり、どこかに何か書いているに違いなく、しかし何分にも突然の代打につき準備不足、そのあたりについてはまたいずれ。
■さて次の代打はアメリカからの起用。『BANQUET in honor of Their Imperial Highnesses Prince and Princess Takamatsu by Japanese Residents of New York and Vicinity』、即ち高松宮宣仁殿下&喜久子妃殿下を囲んで行われたパーティの出席者名簿と晩餐メニューの一揃い。1931(昭和6)年4月11日(土)、ホテル・ピエールで開催された際に出席者に配られたものでしょう。画像では判然としませんが、紅白の房のついたメニューの用紙には極控えめに木の葉の地模様があしらわれ、端整な佇まい。しかし何といっても圧巻は「Seating List」。殿下&妃殿下とともに上座に控えたN.Y.総領事・堀内謙介、高松宮付別当・石川岩吉、海軍少佐・水野恭介といったお歴々以下、9人着席のテーブルで45台、従って総勢約400名のセレブの方たちの氏名が肩書き付きの欧文・アルファベット順と着席テーブル順との二通りでびっしり並んでいます。圧倒的に多いのが日本人の「Mr」諸氏。夫人を同伴していないのはいかにも日本人らしいところ。一方、意外に多いのが「Miss」の方々で、一体どういうお嬢様たちなのかはセレブと全然無縁な私には想像もつきません…とか何とか書いてみたところで「だから何?」といわれてしまえばミもフタもなく、けれど『高松宮日記』などちゃんと資料に目を通しておけばもう少しまともなことも書けたのではないかと、凡打で終わった代打がそう申しております。今週は代打二点、どうもハンパで砕け散った感がありますが、ともにおそらくは二度と手に入ることのない“珍品”ではあろうかと。 ■残る「本」のなかには、帯欠けながら亀倉雄策装丁=デビュー作となった戦前の第一書房版『夜間飛行』、こちらは函欠けではありますが東郷青児翻訳・装丁の『怖るべき子供たち』、恩地孝四郎風の装丁で大木惇夫の『危険信号』、牧逸馬訳の『バッド・ガール』、よく見ないと何が出てくるか分からないゴッタ煮状態の1930~50年代の洋雑誌2本分などがあり、これらも来週中にはぼちぼち店に出す予定です。あああっ。本といえばもう一冊。岡崎武志さんの新刊『女子の古本屋』が届きました。来週には書店に並ぶそうです。“女子”と呼んでいただくにはトウの経ちすぎた日月堂もご紹介いただいているのですが、小店のところはあっさりスッパリすっとばしていただいて、古本界で奮闘する頼もしき女子たちのおはなしに、耳を、もとい目を向けていただければ本当に嬉しく、どうかよろしくお願いいたします。