■前回新着情報でも少しだけ触れましたが、二年に一度、東京で開催される「全連大市」なる入札会が16・17日にかけて行われ、不肖・日月堂も参戦するため、来週、店は15日(火)と19日(土)の二日のみ、各日12時~20時の営業とさせていただきます。そうでなくとも少ない営業日のところへもってきて…ご不便をおかけするばかりで大変恐縮ですが、来週のご来店にはこの両日をご利用くださいますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。 ■「大市」というものを控え、ここ数日はすでに業者の手元にあまねく届いている出品目録を見ながら入札額、とはこれすなわち支払い額を胸算用。「いっ、いまお金使ったら買えなくなる…」。いつまでたっても手薄な資本と、いくらトシをとっても一向に大きくならない人間としてのウツワから、いやはや今週の入札は我ながら情けない結果となりました。新着品1点目は数週間前に落札したまま、依然半分ほど未整理だった古い写真のヤマから、いつかご紹介しようと思っていたものです。画像では判別が難しいかも知れませんが、この写真、男ばかり総勢約50名、思い思いの仮装をしての集合写真です。写真の上から薄紙がかけられ、そこに印刷されている情報によれば「峰山線鉄道開通祝賀余興万国往来行列人名 大正14年11月5日挙行 白銀区一同」。峰山線は京都府の日本海側、現在は「宮津線」といわれている路線で、「余興」が催された二日前に丹後山田・峰山間が開通し、峰山線の全線完成を見ています。前年春より順次開通の後の全線完成とあってか、白銀区一同、がんばってます。先の薄紙には、参加者全員の名前と扮した役柄とが、ちょうどその当人の写真位置に重なるよう記載されてるので仔細に眺めてみました。男性の仮装といえば女装というのが直ちに想起されるわけですが、単に婦人、だけでは全く足りなかったものか、年増婦人、貴婦人に令婦人(どう違うのか写真を見ても判然とせず)、洋装美人(び、びっ…?)に令嬢、女学生、看護婦、子守、挙句は女ホーカイ屋に辻占売女と各種取り揃えてございます。男性バージョンの方はといえば、神主、僧侶、軍人、仕官、紳士といった立派な身なりの方から金魚売り、東西屋など物売りとその周辺まで、登山家がいるかと思えば奴がいて、さらに西洋紳士に印度人と国境をも軽々越えております。写真の中央に並んで写っている看護婦・高田米蔵さんと印度人・吉岡義寅さんなんかすごいんですから。ヨネゾーさんもヨシトラさんも、こんな写真がこんなところで、まさか80数年を経てさらされようとは…思いもしなかったでしょうねぇ。スミマセン。 とまぁ、愉快に眺めることのできる一方で、女装系の一部も含め、いま見ると著しく差別的・不穏当な役柄が含まれているのも事実。仮装に選ばれるモチーフが、イメージとしての共通認識は広く獲得しながらも、日常のなかでは依然違和のあるもの、尊敬であれ畏怖であれ日常とは疎外されているもの、大多数ではなく少数であるもの、であるとするならば、ここに並んだ仮装モチーフには、やはりその時代の社会や人々の意識が写り込んでいるといえはしないでしょうか。もしもいま、50人で仮装大会を開くとしたら - これが結構むずかしい。違和が表層的には巧妙に取り除かれ、つるりと均一化したかに見える社会では、ピンポイントのモノ真似はできても、この写真に表れたような仮装というのは、存外に難しいことなのかも知れません。
■2月に板垣鷹穂の『優秀線船の芸術社会学的分析』を落札して以来、どうも「船」に関するものはムキになって買っているところがあり、今週の落札品のひとつはやはりこの関係となりました。画像は左から1938年発行『比律賓と日本郵船』、同『大阪商船 A UNIQUE ROUND THE WORLD SERVICE』、おそらくほぼ同年発行の『近海郵船 台湾の旅』のいずれもパンフレット。近海郵船の会社沿革によればこの当時、同社は日本郵船、大阪商船に次ぐ日本第三位の定期船会社に成長していたといいますから、トップ3の揃い踏みです。この内、大阪商船のパンフレットは、南米航路就航を翌年に控え、主に南米航路とこの航路を組み込んでの世界一周旅行を詳しく紹介しています。今月下旬より、目黒のジェオグラフィカさんでは「紙の上の旅」をテーマとしたフェアが開催されます。これらの商品を含む一口は、こちらでご紹介させていただく予定でこれから準備。詳細は後日改めてご案内いたしますが、こちらも併せてよろしくお願いいたします。今週はこの他、人文関係書籍およそ50冊、眼鏡や時計等のカタログ類、製薬会社の仕掛付きDMなど、順次新たに店頭に並べる予定です。そして今月28日には6/1~3・東京古書会館で開催される即売会「アンダーグラウンド・ブック・カフェ」の目録締め切りが……残り二週間で、さぁて。どこまで乗り切れるか? そして、大市ではどこまで頑張れるか??… スリリング(もしくは絶対絶命)の二週間がやってきます。