■みなさま、暑中お見舞い申し上げます。東京の真夏日連続記録はいつまで続くのでしょうか。さて、8月の営業ご案内。来週8月9日(土)までは通常の火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたします。8月10日(日)~15日(金)までは店、ネットとも夏季休業をいただき、8月16日(土)より、通常の火・木・土曜日の週三日・各日12時~20時で営業の予定です。猛暑もオリンピックも関係ないという奇特な方のご来店を、当方一人汗をかきつつお待ちいたしております。 ■今週木曜日、海藤日出男の断片でも掴めないかと遅まきながら手にした赤瀬川原平の『いまやアクションあるのみ!』を読了。海藤を追っていたはずが面白さに引き込まれ、また世界的に見た時の1960~70年代初頭・日本美術界のもつ“特殊性”-建築におけるメタボリズムに似た-の指摘に目を啓かれました。ただ、絵画という平面枠を融解し、さらに美術館という空間からも溢れ出した赤瀬川いうところの当時の“熱情”の痕跡は、ほとんど残されていないというのも実感されました。さて翌8/1金曜日、いつもの市場の前半戦でのこと。何てことないタトウから「精神生理学研究所」という文字が覗いています。医学書のなかには非常に面白い図版が収まっていることもあるので、とりあえず見ておこうと未綴じのリーフを捲っていくと……松沢宥の名前が出てきて美術関係とはすぐ分かったものの、あとは不可解な写真や図版ばかり。後ろから二枚目のリーフに、やっと出てきた「研究所」の一覧を見ると、おっ前田常作。堀川紀夫も出てきちゃった…ああっ東野芳明まで…糸井貫二…ははは。さすがにそれは出来過ぎでしょ。しかしそれは間違いなくダダカンその人で - 画像真中、大阪万博・太陽の塔をモチーフとしたリーフには、文字白ヌキで「1970.4.27. 11:45 太陽の塔下全裸ダダカン走行成功」とありました。誰にも気付かれないようにそっとリーフを元に戻し、動揺を隠してそそくさと札を入れ、しかし落札の発声が聞こえるまでの長いことといったら…はいそれはもう。
お陰様で落手した『精神生理学研究所』は1970年の8月1日(落札日と同日だ!)、「東京精神生理学研究所」の発行。編集者は竹田潔、島村清治、稲憲一郎の3名。この研究所は、総勢15名の同人が指定された日時に「同時多発に行為あるいは無行為をもって参加する不可視的美術館」の名称で、指定された日時に行われた行為または無行為=「アクション」の報告書がこの落札品。リーフのなかには白紙もあって「無行為」までもが几帳面に報告されています。もちろん、「行為」の方はアナーキーからコンセプチュアル、あまりに日常なのものやいっそナゲヤリなのまで何でもあり。赤瀬川描いたところの生々しさは当品紙面ではいささか削がれた感はありますが、あの時代の物的証拠のひとつを我が手にすることができました。と、ここまで書いておいて本当に心苦しい限りですが、当品については1年以内を目途に発行を考えている自店目録発行まで、しばし手元に留め置かせていただこうかと。目録が計画倒れにならないように宣言を兼ねてのご紹介、どうか悪しからずご容赦のほど…。 ■日本の美術界が奇妙な沸騰を見せていた時代は世界的に政治の季節でもあったわけで(このあたり我ながら強引な繋ぎっぷり)、フランスからこんなものを。ベトナム戦争当時のプロパガンダ・ポスターです。1960年代、パリで印刷されたもの。メッセージの発信元はどうやら南ベトナムの支援団体で、「共産主義者のベトナム侵略を食い止めよ」といったメッセージです。気になるのはこの図案、文字を日本語に置き換えると「まんま柳瀬正夢…」と思うのは私だけでしょうか。というより、世界中、いつの時代も何故プロパガンダ表現はこうも似てしまうのか、よぉーく考えてみると不思議です。赤と黒、荒々しく力強い線、視線を右上がりに誘導する構図等々、いってみれば「プロパガンダ様式」。これって一体いつ、どこで、誰が“発明”したものなのか、根っ子の部分が気になってきました。どこかに『プロパガンダ様式』という研究書はないものでしょうか。それにしても。振り上げる拳の先が、拳を振り上げる者より必ず大きな存在だった時代が-例え街中にポスター貼ろうが全裸で疾走しようが-心底健全に思える只今現在というのは一体…と長くなるのでこのへんで。今週はこの他、柳澤健著『紀行世界図絵』、柳亮『巴里すうぶにいる』等欧州紀行関係書5冊、『違星北斗遺稿 コタン』(昭和5年・元版)、何やら混沌とした紙モノがダンボール一箱入荷いたします。「雑書目録」には只今展覧会の目録を随時アップ中。こちらも併せてよろしくお願いいたします。