■先週「その他のご案内」で簡単にご紹介いたしましたが、小店紙モノ部門の展示即売「集める古紙・使える古紙」が来週13日(金)から「深川いっぷく 調剤室ギャラリー」で始まります。野暮用の多い時期に加えて諸々事情もあり、企画のリコシェさん、そして深川いっぷくのみなさまが全面的にバックアップして下さっての開催となります。29日(日)まで続く会期中には、「いっぷくいっぱこ古本市」やPippoさん、うさりんさん、そして岡崎武志さんをゲストとしたライブ&トークも行われます。詳しくは「深川いっぷく」さん、「リコシェ」さんのサイトで是非ご確認ください! 18日、20日、25日のいずれか時間がとれたところで私も会場に参ります。初春の下町散歩を兼ねてお運びいただければ幸甚に存じます。何卒よろしくお願いいたします。
■タイトルを『招健康像-Manneken-Pis au Japan』というこちら、平たくいえば小便小僧のコスプレ写真集ということになりますか。画像左端の絹布貼の帙に収められた全8葉の内、5葉が“コスプレ”にあたり、画像の「モーニング姿」と「法被姿」の他に「水兵服姿」「ボーイスカウト姿」があり、さらに「日本紋服姿」には「木子七太郎清敏と命名」という言葉が添えられています。
これを作成した御仁というのが円満児こと建築家・木子七郎。画像右端は七郎と清敏クンが並ぶ晴れがましい記念の一枚で「大阪木子邸楼上ベランダにて」撮影されたもの。これらとともに収められた日仏併記の挨拶状によれば、ベルギーの永井大使の厚意により“世界の寵児として余りに有名”な小便小僧が自邸に将来、これを建碑した記念に“わざと純日本風に此建碑帖を作”ったといいます。発行は1930年。別に添えられていた孔版刷の葉書を読むと、限定100部の発行で1~50番を永井大使を経てベルギーの方たちに、残り50部を日本の“趣味同好の方々に”贈呈するとあります。気になるのはこの葉書にある「木版印刷」の文言。一見、彩色写真にしか見えないのでここまでコスプレ“写真”というご紹介をしてきましたが、よぉーく見ると、コロタイプ印刷の上からコスチュームの部分を確かに木版刷しています。 しかも清敏クンの右手の位置が図版によって違う。ブロンズ像か石像か、いずれにしても手の位置がそう簡単に変えられるはずはありません。つまりこれは、現在の山手線・田町駅の小便小僧(こちらは衣装の着せ替え)とは違い、木版刷によって着せ替えちゃったわけです。この発想はすごい。さらに細部は手で筆が入れられるという徹底ぶり。ここまでやられたのでは「参りました」といって笑うしかありません。これを云えば古書界の事情通の方たちには出所までお分かりかと思いますが、当品は100部内の99番、円満児から三田平凡寺へと贈られたものです。
■二点目は『招健康像』と対照的なもので……ううむ。これは困った名前がない。絵巻、といえばみなさん煌びやかかつ美麗なイメージを想起されるでしょうが、いつの世にもお金に困っている人はいるもので、2001年3月現在に至っては百年に一度といわれる規模で世界中に溢れているわけで、元々転がすお金なんぞなかった私の場合事情は異なるもののその一人であるわけで、こんな時代には励ましとなるかも知れませんこちらは、絢爛豪華な絵巻なんて縁がない江戸時代の貧乏な藩が軍備の配列や行列の配置などを記録したもので、一応「活字版」と呼ばれる代物だと仄聞いたします。活字版がきちんと絵巻の格好で残された『御旗本備作法』というのが『古本カタログ』という本に載っておりますのでその解説を引用すると、「人馬はハンコ、旗印・槍など家ごとに違いがある部分は手描きになっている」。ここでハンコといわれているのがつまり木活字のこと、だから絵巻なのに「活字版」と呼ばれるんですね。今回入手したのは実はペラ7枚ほどに切れてしまっているもので、画像はそれらしくデータ上で繋げ、さらに部分的にコピペで増員までしてしまった商品紹介としては誠にフトドキな代物ですが、こんなふうに遊んでいるうちに、「小姓」は「坊主」のハンコに髪の毛を書き入れただけ、だとか、鐘のハンコの前後に人のハンコを押して肩と肩を結ぶ棒一本書き入れて鐘を担がせたつもりが前後の人が首つってるみたいに見えちゃってる、とか、ハンコ「に替えた」だけではこと足りず、ハンコ「を減らした」ことまで見えてくると、これはもう感動すら覚えます。お金持ちによる本当の意味での道楽と、貧乏からくる苦し紛れの智慧とが、何だかとても似通った何かをもたらす、というのは興味深いところでもあり。ちなみ『御旗本備作法』の解説は次のように続いています。「あまりにもバカバカしいためか、こうした活字(活絵?)の本は3,4点しか残っていないという。」………もはやいうべきことばもございません。今週はこの他、美術関係書からガイドブックや辞典まで何が出てくるか私もまだよく分からない戦後の洋書のクチ約30冊、戦前の商業デザイン・建築関係の洋雑誌およそ50冊、文革当時の中国とソ連の対外広報誌約30冊など、落丁確認だけで手間取ること確実な新着品が揃っております。何なんだかねぇ~と、ぼやけどもひとり。