■まだまだ残務は残るものの、店の営業もHPの更新も、来週からはまたいつものペースに戻ります。改めて、よろしくお願いいたします。復旧のとっかかりがこの新着情報、いつもの通りいずれも市場からとれたての情報を。4月7日の仕分けの段階から、何はおいてもこれだけは絶対落札したいと思っていたのが最初の画像。金文字で『西洋料理献立』と刻まれていた深い緑色のアルバムは、1910年=明治43年の10月から12月までに催された饗宴のメニューとプログラムのコレクションです。1Pに1点の貼り込みで28点。エンボス・金箔押しの“菊の御紋”があしらわれた - 普通ならそれだけでひれ伏すべき-のはこの一冊にあってはごくフツウ、画像左の「石版+コロタイプ+手彩色+エンボス・金箔押し」や手彩色どころか挿絵手描き、画像真中の凝りに凝った逸品(よぉーくご覧下さい)、他にもパーチメント(羊皮紙)や絹布を使ったものなど、これだけ贅を凝らした紙モノの集合体は正直云って初めてです。しかし表だけ見ていてもつまらない。午餐、晩餐、祝宴で供された料理の表記はフランス語の正統派表記&組版あり、フランス料理の漢字&カタカナ併記あり英文ありと多彩。献立内容-例えば「鱒與牛酪製掛汁」だとか、詳しい人間に聞くところによると特級クラスのワインが並んでいるそうで-では翻訳センスから高級食材の当時の生産もしくは調達方法まで「?」が浮かんでくるし、と、細部まで興味は尽きません。また、この短期間のうちに明らかに一人の人物が列席した供宴の多くが「清国公使館」がらみであることなどからは、本来この一冊には歴史的な意味があるはずで。例えば画像左端の晩餐会のメニューに描かれた人物は誰なのかも
-てっきりビスマルクだと思っていたのですが、調べてみると1998年には亡くなってました。何と迂闊な-きちんと調べるべきものだと思っております(すみません)。ハプスブルク家を表す双頭の鷲の紋章入り舞踏会のプログラムや、ほとんど苦肉の策としか見えない日本語に置き換えられたフランス料理のネーミングは、そのまま欧化と格闘した日本の歴史的痕跡ともいえましょうか。辛くも再改めの上札で落手したアルバムには、単なる紙モノフェチではなく、これからは古本屋が紙モノを扱う意味をもっと深く考えて仕事に励めよと諭されている気持ちになります。まだまだ勉強かぁ……という意味でも思わず溜息がもれる一冊です。
■『西洋料理献立』の次に、「これは買いたい・買えればいいけど・買えないかも…」と思っていたのがお次、こちらも再改めの上札での落札。市場は過酷ダ。『OLYMPIA DER ARBEIT』、即ち「仕事のオリンピック」の副題は「豊な職種の場で競い合う若き労働者」。なるほどオリンピックな視点で編集された写真集は、ベルリン・オリンピック成功の熱も冷めやらぬ1937年発行の初版です。冒頭にテキストが11P、あとは1Pに1点の写真が全部で72点、レニの映画に触発されたかのような輪郭のぼんやりした写真あり、大胆なパーステクティブのカットあり。いかにもナチが好きそうなマッチョなお仕事が多い一方で、美容師や芸術を志す若者まで取り上げているあたりは少々意外。ハーケンクロイツは随所に織り込まれておりますが、しかし、総統が登場しないことには! ということでしょう、後半はナチスの大会での様子や激励する総統の姿なども勿論収められています。「健全さ」を絵に描いたらこうなる、という以外に批評のしようのない写真をとった人物の名前はHAHN=HAHN。生返事のようなこの名前、こんな写真を見ても話半分にしときなさいよ、なんていう冗談だったら面白いのですが相手がナチスでは怖すぎます。只今現在交通広告大量投入中のオリンピックTOKYO招致の先頭に立つ人物のアタマの中にある「健全」イメージも実はここにある写真に近いのではないかと思うとそれもコワイと、この写真集冒頭、反面教師として置かれた咥え煙草の少年のポートレートにより近しいものを覚える私は思うのでした。ともあれナチス関係の書籍としては珍しいもののひとつかと思います。新着品はこの他、ナチス・プロパガンダ関係10冊、アトラス3冊揃い、解剖学3冊揃いなど戦前の洋書を中心に、モランディの画集1冊、アメリカ・インディアンの装飾図案・手彩色プレート集、人文系図書40冊、翻訳文学30冊など。来週から店の品物も少しずつ入れ替える予定です。