■自宅隣の小学校の桜が、今日は七分咲きとなりました。徹底的な力でもって、無慈悲に、破壊の限りを尽くした同じ自然が、一方では人の心を慰撫する花を咲かせています。ここ数年では比較的遅く、東京にも春が到来しました。被災地への一日も早い春の訪れを祈り、また、放射性物質のことなど一時忘れて、この週末には私も静かに桜を眺めたいと思います。さて、今週も新着品のご案内です。やはり手短に。
■1点目は小石清著、玄光社・昭和13年刊行(第6版)『撮影・作画の新技法』。戦前、我が国新興写真芸術の分野で『初夏神経』という貴重な仕事を残した小石清による、写真技術に関する実用書です。実用書ではありますが、あくまで“新”- 「新しい」技法をアマチュアカメラマンに伝授しようという意図で書かれただけに、目次には赤外線撮影、ソラリゼーション、合成写真、フォト・モンタージュ、などといった項目が並ぶという、前衛的手法に終始した内容です。飯沢耕太郎著『都市の視線』によれば、当書は“彼(=小石)の写真技法を集大成した”ということで図版も充実。それぞれの技法によってつくられた小石の作品が、口絵として22点(『初夏神経』からの図版引用含む)、その他本文中にも多数の図版が引用されていて、小石の作品集として見ても充分。正方形の判型にテキスト横組み、函や表紙の瀟洒な装丁は恩地孝四郎によるもので、本体表紙平に少し汚れがある以外、全体に良いコンディションが保たれています。
■『撮影・作画の新技法』の初版発行は昭和11年。そこから遡ること3年、昭和8(1933)年に岐阜にあった学校の卒業アルバムに、合成写真やフォト・モンタージュなど、新興写真多数を見つけました。『武義(むぎ)中学校 卒業アルバム』。一体どういう人の仕事だったのかは、最終ページにある「Photo By Suda Studio」とあるだけで詳細は全く不明ですが、まるで心霊写真のようになってしまっている「化学部」の写真などもあり、いずれにしても卒業アルバムがこんなにゼンエーで大丈夫だったのかと他人事ながら心配になる、ある意味とても希有な一冊。ではないでしょうか。
■今週はもう一点、先週落札した洋雑誌に挟まれていた紙モノ。カッサンドルとルポーが共同で設立したグラフィック・デザイン会社「アリアンス・グラフィック社」のカード。葉書大のサイズで表側は1930年にカッサンドルが描いた強化ガラス「トリプレックス」のポスター用原画をシルクスクリーンで刷り込んでいます。小石清の『撮影・作画の新技法』に話を戻すと、マン・レイの作品に触発されて研究を重ねたというソラリゼーション技法の代表作「ピストン狂騒」の構図は、1927年のカッサンドルの、ポスターには採用されなかった「北方急行」原画の構図と非常に共通点が多く、当時小石に見るチャンスがあったのかどうか、或いは共通する時代精神の成せる業なのか、興味深いところです。