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11/05/07 戦前の芸術写真から、福原信三の著書と吉川速男による『カメラと機関車』 / 柳瀬正夢挿画入マイナー詩集『ペリカン』


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■GWも明けて金曜日、小店の仕事は市場で再開となりました。半世紀、食べていくための困難こそあれ、身辺概ね安穏とこれまで過ごしてきた揚句に迎えたあの3月11日とそれ以降の出来事は、実際的な景気の冷え込みをもたらしたばかりか、そうでなくともすぐにへこたれる人間にはなかなか堪えているものと見え、市場に出掛けたところでよほど欲しいと思うもの以外もう全然買おうという気が起こらず、しかもその、よほど欲しいと思うもの、なんてそう簡単に見つかるわけなくそう都合よく出てくるはずもなく、ならばその、よほど欲しいと思うものって一体どんなんだと云われればこれがまた自分でもよく分からないという、そんな調子で過ごしたこの二カ月でありました、が、正直 コレコソハ! とまではいかないものの、これなら少し頑張ってでも買おうか、と、ようやく少しだけ光明が見えた今週の新着品です。
1点目は昭和12年発行の『アサヒカメラ叢書19 旅の写真撮影案内』。文庫サイズで上製・函入りのこのシリーズ、戦前はお金持ちでないと楽しめなかった写真趣味、とはいえ、要は実用書とあって発行部数も多かったのか、古書即売会の会場などで大概一度は目にされているかと思いますが、今回入手の一冊は、見返しに著書である福原信三の署名と蔵書票のあるところがミソ。福原信三はいわずと知れた資生堂創業者の息子にして初代社長、とすると、画像中の見開き右頁に貼り付けてあるこの繊細かつ瀟洒な蔵書票は山名文夫のデザインか…? と想像しているのですがどうでしょう。ちなみに書票中央の欧文文字は小文字のs(=shinzo)とh(=fukuhara)を組み合わせてシンメトリーに配置したもの。旧蔵者はプライヴェート・プレスを主宰されていた方だと聞いていますが、生年などから考えて福原自身と直接的な接点があったとは思えないため、後世、福原信三の旧蔵書をどなたか縁のある人を通じて贈られたものではないかと、これまた想像するばかり。関係性を成立させる幾通りもの可能性など、勝手に考えを巡らせることのできる余地をもつ品物というのは、やはり古本ならではの楽しみだと思います。


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■同じ旧蔵者の『カメラと機関車』は小店にとって漸くの初入荷、しかも函・カバー付きのよい状態で落手しました。昭和13年・玄光社発行の初版で、著者はこの時代、写真関係実用書各種の撮影・執筆に精力的に取り組んだ吉川速男で、当書については著者による自装本となっています多くの著作の中でも吉川自身、「私のアルバム中、最も異色あり、且最も努力を傾注したものから選檡し、新たに作画して出来た」という自信作であり、実際に吉川の代表作とされる著作であるばかりか、鉄道写真集としても初期の優れた作品とされています。あのカッサンドルのポスター「ノルマンディー号」に対して板垣鷹穂+堀野正男の『優秀船の芸術社会学的分析』があるように、同「ノール急行」に呼応してこの『カメラと機関車』がある、という極私的な趣味嗜好と思い込みとによって、一度はどうしても手にしたかった一冊です。『優秀船~』と比較してみると、機械美や写真ならではのパースペクティヴに注目した写真の作風から、正方形に近い判型、布装の上に紙カバーをつけて函に収める造本の要素、写真の配置やテキストの組版などに援用されたバウハウス風のレイアウトなど、共通点も多く見られます。モダニズムに深く関わる書籍である一方、実際にはより熱心な鉄道ファンの方たち支持されているようで、著者のご遺族や版元の許可を得て全頁を紹介する「web復刻版」も本日発見。この仕事をしていると「思い入れのある本は売りたくないでしょう」とよく聞かれますが、ところがどうして良いと思うもの程売れるのが嬉しいことはありません。古本屋は一旦手にすればそれで充分、あとはweb版で楽しむとして、やはりゲンブツでなければ!という方が現れるのをどこまでもどこまでも、お待申し上げる次第にございます。


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じぃーと見ていると何だか仲代達也に似てるような気がしてくるペリカンの絵。その絵が表紙を飾る井上廣雄著『ペリカン』は昭和4年に発行された詩集です。井上廣雄も、版元の「読者の為の翻訳社内 時雨堂出版部」もいまやまるで調べる術のない無名の存在で、何故入札しようと思ったのかといえば偏に仲代達也っぽい人間的なペリカンの絵と、本文中に5葉綴じ込まれている柳瀬正夢の挿画がその理由の全てでした。表紙の装画も挿画も、井上の詩の内容に沿って描かれたこの詩集のための作品で、柳瀬が装丁・挿画に関わった書籍のなかでは珍しい部類に入るものと思われます。持ち帰ってよく目を通してみると、教室に横溢する自由な空気を活写した「文化学院」と題された詩があり、さらに序文は堀口大学、中川紀元による著者の肖像画があり、この両者もまた文化学院の講師陣であることから、井上廣雄という人が - 生徒なのか助手といった立場でか、詳細は詳らかにしませんが - 1920年代に文化学院に席を置いていたことだけは、どうやら間違いなさそうです。しかしそれにしても「柳瀬正夢+珍しい=買ってもいいかも。」って、こんなに深みのないことであっけなく解消される程度の悩みだったわけですか。すみません。
■今週はこの他、戦前の雑本約20冊『建築グラフ』等戦前建築関係雑誌5冊、『音楽評論』他戦前音楽関係雑誌7冊、そしてさらに同じ旧蔵者の … はまた来週の更新で。

 

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