■早いですね。というより早過ぎませんか。もう11月だなんて。年明け1月下旬開催の「銀座 古書の市」の目録締切まで、もう2週間ちょっとしかない! というのに慌て始めました。身中の石にはせめて少し縮んでいただくべくおクスリに手を合わせながら、明日からはスッパリと年明けの支度にかかりたいと思います。その石の件ではご心配をおかけいたしましたが、お陰さまで今週体調が安定してまいりました。そこで、今週も新着品のご紹介です。
■1点目はマリー・ローランサンによる『動物小詩集』。ちょっと紛らわしいのですが、アポリネールのは『動物詩集』でこちらは「小」がついてます。「未発表詩」を副題とする『動物小詩集』は、著者と親しく交わった堀口大学の翻訳で、昭和10(1935)年に裳鳥会という版元から限定80部が発行された内の一冊です。
A4判で夫婦函入り。本そのものはタトウ入り・未綴じのリーフで構成されています。函とタトウはお揃い -ピンク色と墨のグラデーション - の木版装。扉の後ろに、刷面にローランサンの署名がある多色刷木版画1葉を収めており、堀口とローランサンとの親交の深さを伺わせます。巻頭にはアポリネールがローランサンに捧げた詩が置かれ、ローランサンの詩の中でおそらく最もよく知られた詩「鎮静剤」- 死んだ女より/もつと哀れなのは/忘られた女です。 - や、堀口のことをうたった「日本の鶯」など、内容的にも優れて充実した詩集です。
函に貼り込まれた木版刷りの蔵書票には「D・HORIUTCHI」の名前が見えますが、何分にも今回初めて目にした本のこと、全冊に添えられたのか、この1冊だけのことなのか、古本屋としては忸怩たるものはありますが、明言は避けねばなりません。もうひとつ、裳鳥会というのも実はこの本で初めて知った版元で、奥付に「発行兼印刷者 秋朱之介」とあるその名前 - 秋は造本・装丁(釘)に非常に意識的だった出版人として知られています - から、戦前日本の限定本倶楽部のようなところかなと推測していたものの、どうやら堀口大学の著作だけを限定本として発行するために発足したらしい、というのを知って驚きました。活動は当書発行の1935年に休止したといいますから、一体何冊の本を出して終わったのか、その辺りについても勉強の至らぬ我が身の不足を恥じ入ります。
『合羽版 ABC』はステンシル画によるABC絵本。合羽版をフランス語にすると「ポショワール」なので、先週のバルビエと今週の当書とは実は同じ手法。20世紀初めのフランスのポショワールが技術的にどれほど精緻なものだったか…というのは店頭で比較してご覧下さい。
時間の流れの圧倒的な早さの前に、すでに追いつかないことが分かりきっている宿題が山と築かれ、その麓でガックリと項垂れている芥子粒ほどのサイズのワタクシ。毎年このシーズンになると必ず頭に浮かんでくる図です。今後も年々順調に縮んでゆく予定のワタクシ …… あ゛あ゛ぁ ~っ。
■『合羽版 ABC』は川合㐂二郎という人の作品集で100部限定の非売本。造本は、秋朱之介とは方向性を異にしながらも、やはり装丁・造本に情熱を傾けた斎藤昌三によるもの。36番とシリアルナンバーが書き入れられた当書は斎藤昌三の青園荘に割り当てられた40部の内の一冊で、要は、合羽版という手法によって描かれた「ABC絵本」といえばお分かりいただけるでしょうか。
では、その合羽版とはどんな手法か、と云いますとステンシルのことで、図版や文字を切り抜いて型紙をつくり、型紙の上から刷毛やタンポで顔料を塗り置き、図形を刷り出す手法です。で、この合羽版をフランス語にすると「ポショワール」。19世紀のファッションプレートや、バルビエの挿画本でお馴染みのあのポショワールです。先週ご紹介した『Fêtes Gallantes 雅な宴』と今週のこちら『合羽版 ABC』とは何と! 同じ手法 !! なのであります。ということを云いたいがために落札したと云っても正直、過言ではありません。いずれ合羽版は入手したいと考えていたのですが、同じ合羽版の類書と比べて、技術はもちろん、とくに図版センスの点で決して悪くない『合羽版ABC』は、いま改めて見てなかなか良い買い物だったかもなんて思い始めております。痘痕もえくぼ? はい、それはもう買った欲目で。
■来週から再来週いっぱい、目録の原稿作成のため小店店主、大いにテンパってる可能性がありますが、ということはつまり相当からかいがいのある時でありまして、そう寒くならないうちに、しかも、目録掲載用に店頭商品がみるみる目減りする前に、みなさまにはご来店のほど何卒よろしくお願い申し上げます。
■先週の土曜日にスタートした「ラブルールの版画展」は、本日10月27日(土)が最終日となります。今回出品されている商品については、会期終了と同時にご厚意によって小店にお預け下さった方の元へ全点返却いたしますので、ご売約が成立したもの以外、店には残りません。「ちょっと拝見」から「是非購入」まで、ご興味をおもちの方々には、本日閉店時間までにご検討、ご来店のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
■横腹が痛む。どうもお腹の調子が悪い。時々気分も悪くなる。と、ここのところ体調が優れず、念のためにと病院で簡単な検査を受けたところ腎臓に結石があることが判明しました。知らずにすめばよいものを知ってしまったがために重さのいや増す身中の石でございまして、今日あたりは背中から腰のあたりに痛みの場所が移り、さていつ降りてくるのやらとおっかなびっくりの数日を過ごしています。加えて。来年1月下旬に開催される松屋銀座での「銀座 古書の市」の目録の入稿締切が11月20日と1ヶ月を切りました。
そうした事情が重なっておりますので、当HPの更新を、少しの間、不定期とさせていただく可能性がございます。商品の簡単なご紹介などはFacebookを利用することもありますので、「古書 日月堂 facebook」の「」内をそのままコピペ→検索していただいた上、こちらの方もご参照いただければ幸甚に存じます。何卒よろしくお願いいたします。
■結局のところ、やはりプレート1枚が欠けていた『Fêtes Gallantes 雅な宴』。ヴェルレーヌの第二詩集に、ジョルジュ・バルビエがバリバリのロココ調の挿画を描き下し1928年に1200部が発行された内、最も部数の多いヴァージョン。別丁の挿画はポショワールです。バルビエの挿画としては最もクラシックなスタイルで、ものすごぉ~く正直なことを云いますと、「ここまでやるのはいかがなものか。」と思うコテコテの装飾は、どちらかというと小店では苦手とする部類。従って当欄でのご紹介は見送るつもりでいたのですが、そうはいっても時折見せる大胆な構図、色面のコントラストなどバルビエらしい華やかな演出と、ポショワールの見事な手技を見ると、紹介しておこうかと考え直した結果の登壇となりました。
おや。でも、こうして見ると、近くにあるラブルールの現代性が浮きたってくる効果があるようで、むむむ、もっと早くこの点に気付くべきだった。むむむむむむむ。
■さてさて。先週「絶対どこかで画像を紹介しないことには売れない新発見の3冊」というのがこちら。『Syllabaire avec Premiers Elements de Langage usuel』。自動翻訳を使って意訳を試みると 『フランス語のあいうえお と 日常会話の第一歩』といった感じでしょうか、兎も角も、フランス語の教科書には違いありません。巻1から3までの3冊ですが、奥付というものがない不思議なこの教科書、表紙に刷られた「ECOLE DE L’ETOILE DU MATIN」の表記によって、明治21(1888)年に創立された名門私立「暁星学園」のものであることが分かりました。また、巻1の巻頭に添えられた序文に「1922」即ち大正11年とあることから、大正末~昭和初期に使われていたものらしい。
特筆すべきは、筆記体を含め使われている書体の美しさ、添えられた挿絵 - なかにはカラー刷のページもあります-のとても子ども向けとは思えないおしゃれなセンス、文字と挿絵と余白とのバランスも素晴らしい組版の妙、そして、登場する暁星学園の制服を着た学園男子生徒たちの何ともかわいくユーモラスな写真!とくにユーモラスという点はとても大切で、そのセンスには脱帽です。例えば「Jiro」くん一人が出てきたページを繰ると、次に、「Jiro」くんの指さす先に「Taro」くんがいる写真が出てたり、右腕を三角巾で吊った「Taro」くんの隣に今度は「Ichiro」くんが出てきたりと、言葉にするとたちまちどよぉ~んとつまらなくなってしまうのがどうにも残念なのですが、とにかくみんなかわいくてユーモアにも事欠かない。こんな教科書でフランス語を習っていれば私の人生も違っていたんじゃないかと思いたくなるそれはそれは素敵な教科書です。復刻版をつくってくれたら私は買いますよ絶対。いや待てよ。売らなきゃいいだけか。 いやいや背に腹は代えられず、売りますよこれ!
■来週はもう11月。「銀座 古書の市」目録に掲載することが決まると、商品は即売会会期まで動かせなくなります。心残りのお品物などありましたら、できるだけお早目にお声をおかけ下さい。何卒よろしくお願いいたします。
■先週お知らせした通り、本日10月20日(土)より23日(火)、25日(木)、27日(土)の4日間、小店店内で「Jean-Emile Laboureur - ラブルールの版画展」を開催いたします。ラブルールの署名入りオリジナル銅版画を中心に、初期の木版画からラブルール夫人のサイン入り後刷、版画レゾネなど含め約50点を、小店店内で陳列展示するとともに即売いたします。
前にも触れましたが、ラブルールの版画は自画自刻自刷を基本とするファインアート。今回出品する約50点の内、ラブルールが生前に自ら刷りまで手掛けた作品は28点、さらにその内の25点がラブルールの署名入と、作品として申し分のない条件を備えています。
白と黒のコントラストと簡略化された描線が強い印象を与える1910~20年代初めの木版画・署名入5点や、ラブルールが彫った銅板原板1点と書籍本体に刷り込んだものとは別に12葉の銅版画がついた『LABOUREUR EN BRIERE(ブリエールのラブルール)』18部本など、購入機会の非常に限られた作品も含まれています。また、1980年代になってからの後刷も、その多くにラブルールの自画自刻を保証するラブルール夫人のサインが入っています。
版画の価格は1万円台から3万までを中心に、6~8万円台、10万超のおおむね3段階となっていますが、最も点数が多いのは1~3万円と、コレクターご夫妻のご理解とご厚意により、大変お求めやすい設定とさせていただいております。この場をお借りしてM.P.B., Mme.M.B.M.ご夫妻に心より感謝申し上げます。有難うございます。
尚、今回はご成約なった時点で即時販売し、会期終了まで展示のために残すことはいたしませんので、予めご了解下さいますようお願いいたします。
鹿島茂先生ご自身の言によれば、かの先生をして愛書家地獄へと突き落とす(むしろ天国?)力の一翼を担ったというのですから大変なものです、ラブルールって。そのラブルールの作品を、まとめて、直に、ご覧になれるこの機会。どうか是非ご来店、ご高覧下さい。あ。お気に召したらもちろんご購入も! よろしくお願いいたします。
■ラブルールが挿画本の世界でも活躍していた20世紀大戦間期のフランス。そのフランスには今日の東京で云うと信濃屋さんみたいな酒販店があり、いまもパリの街を歩いているとあちこちで出くわすんですが、そこはフランスだけありましてワインの扱いが中心で、このニコラ社のワインに関する広告宣伝活動というものが1920年代頃から多岐にわたり、しかもとんでもないクオリティでもって展開されていく、というのは小店のお客様なら周知の通り。
だというのに何故かこれだけはこれまで入荷したことがなかったワインに関するエンサイクロペディアとでも呼ぼうかという5巻本『Monseigneur le Vin』、邦訳タイトル『ワイン閣下』が入荷いたしました。ホントにうれしい。
画像はシリーズ5冊目、棹尾を飾る『L’ART DE BOIRE (ワインの飲み方)』。1927年、ニコラ社によって何と32,000部が刷られたという立派な書籍。イラストはフランス挿絵本黄金期を担ったイラストレーターのひとり、シャルル・マルタン。小店に今年入荷したエリック・サティ署名入りの『スポーツと気晴らし』の挿画でご記憶の方もいらっしゃるかも知れませんが、例によって軽快で、ユーモラスで、しゃれのめしたマルタンの挿画・ポショワール9葉とカット多数がこの1冊に収められています。テキストはルイ・フォルス。
残る4冊は『ワインの通史』『ボルドーの優れたワイン』『ブルゴーニュの優れたワイン』『フランスのその他の地方の優秀ワイン』というテーマ毎の編集で、やはりふんだんに挿画を入れて発行されました。こちらの方はいまは名前の残っていないイラストレーターによるものですが、巻末に綴じ込まれたワイナリーの詳細地図や一覧など、ワイン愛好家の方には資料的に見て面白いものではないかと思います。
いずれも必見の全5冊。に、実はマルタンは単独でも1冊。何とも嬉しい6冊の入荷です。
上の金色のネクターおじさんの表紙がポール・イリブによる仕事。中面のフォトモンタージュも素晴らしい。右下の星と左のタイポグラフィで構成したものはともにカッサンドルで、書体に至るまで細心の注意が払われた見事なお仕事ぶり。どれも何度見ても飽きることのない素敵な印刷物。
■こちらは本当にひっさぁ~しぶりの再入荷となりました。同じくニコラ社のワインリスト『Liste des Grands Vins Fins』の1930年版、1931年版、1936年版の3冊。こちらも素晴らしい才能が仕事を手掛けていて、画像上・金色の表紙にニコラ社のャラクター「ネクターさん」を幾何学的に再構成した上、美しいエンボスであしらった1930年版はポール・イリブ。1908年、ポール・ポワレのファッション革命を宣言することになったアルバムに起用され、いわばファッションのモダニズムの先頭に躍り出た人に相応しく、このリストでは新興写真とキャラクターのモンタージュという新しい試みにも挑んでいます。
左下、ブルーの星をあしらった1931年版と右のタイポグラフィによって構成された1936年版の2冊はともにカッサンドルによるもの。こちらについてはもはや多くの言葉を費やす必要はないでしょうね。いずれ劣らず素晴らしく、何度見てもほれぼれとする印刷物でありまして、何度見ても、手にする度に驚嘆させられるというのは、すごいことなんだなということがだんだん分かってきたここ最近です。
■今週は先週に続く岡本太郎が出てきて、柳澤和子宛て献呈署名入り書籍10冊、これはいずれ絶対どこかで画像を紹介しないことには売れない新発見の3冊、柳宗悦・富本憲吉他民芸工芸関係他戦前書籍7冊、フランス旧植民地観光写真帖2冊、レイモン・ラディゲの著書『DEVOIRS DE VACANCES』(仏語原書 コクトーへの献辞 1921年 イレーヌ・ラグ挿画入 限定198部内15冊本の1冊=No.4 とても瀟洒な本!) などが明日には店に入ります。