■全治1ケ月。整形外科のセンセイの言葉はまるで予言のようでした。ある日、忽然として痛みが消えた肋骨骨折。数えてみれば骨折が判明して丁度ひと月のことでありました。ご心配をおかけいたしましたがお陰様で完治です。毎日牛乳。これだけは続けます。来週も店は火・木・土曜日の各日12時~20時で営業いたします。乞うご来店! ■何だかよく眠れたなぁ。と思いながら寝ぼけ眼で目覚まし時計を見れば…13時。あろうことか!市場の開札スタートまで残り30分!!どうしよう。もう無理。でも行かないと。というわけで、今週は辛うじて間に合った後半戦のみの参戦となりました。「ここで買えねば新着品がないゾ。」という緊張感がむしろ功を奏したものか、これだけは意地でもと思った戦前の日本郵船の案内三点一括、何と1,000円という僅差で、ここのところずーーーーっと負け続けていた某書店さんを振り切って落札。上の画像はこのうちの2点、表紙にアール・ヌーヴォー&ジャポニスムの王道的図案を配し、金色づかいも印象的な『ASAMA MARU(浅間丸)』の超豪華なパンフレットと、昭和15年に竣工した『NITTA・YAWATA・KASUGA-MARU(新田丸・八幡丸・春日丸)』の大判・極美パンフレットです。『ASAMA』は20.2×44.5cmという極端な横長。表紙を開くとやはり贅沢に金色を使って描かれた客船の全容が現れ(画像左下・変則的なサイズはこうした中面により招来)、さらにその下からは、ボート・デッキ、Aデッキ、Bデッキ…と続いてEデッキまで、ページを開くたびに船内各層別、ということは概ね等級別の構造・配置が現れるという趣向。いまでも大きな建造物を輪切りにして見せる絵本がありますが、ちょうどあんな格好だと思ってください。一方、『NITTA~』はペラものながら全て開くとタテ66cm・ヨコ90cmに及ぶ、ペラものと呼んでしまうには巨大な代物。両面とも図版の一部はカラーで印刷されています。浅間丸の就航は昭和4年なので、こうして表紙を並べてみると、新田丸等の竣工までの約十年の間に、デザインはアール・ヌーヴォーからアール・デコへと着実に変化したことが明らかです。十年の歳月はしかしそればかりではなく、「浅間丸」が当時から“太平洋の女王”と称され、いまもって我が国戦前の代表的な名船と謳われるのに対し、「新田丸」「八幡丸」は欧州航路用に建造されながら欧州第二次大戦勃発により太平洋航路へと航路を変更、それもつかの間、数年後には太平洋戦争に向けて航空母艦に改修、また、「春日丸」に至っては完成を目前にして海軍徴用にあい、客船として使われることは一度もなかったといいます。今回落札した3点には、画像の2点の他に『欧州航路新造船 新田丸 八幡丸 春日丸』のこれまた豪華なパンフレットがあり、「客船」としての春日丸は、新田丸・八幡丸が行くはずだった「欧州航路」は、そして日米開戦以降やはり海軍に徴用され、輸送船へ、交換船へと転用され、やがてアメリカ軍によって撃沈された「浅間丸」の優雅な姿は、わずかに、こうした紙の上に残されることになりました。
■さて次は、市場の隅の方に置かれていたダンボール箱をひっくりかえしていて気付いた一点。ほぼこの一冊のために落札。誰も気付いてないだろうな。安く落とせますぜ。へっへっへっ。と思っていても、落札は上札。一体、誰が気付いたものか。かように市場は塩辛く…ええ。いや。気を取り直して。その一点というのがこちら、『資生堂 HOME CALENDER ご家庭暦 1931』。昭和5年=1930年11月に発行された小冊子で、各月の催事行事等の暦に、月別の化粧法アドバイス、料理や映画に関する短いお話などを添えて構成されています。内容や発行意図などは世界初の百貨店・パリのボン・マルシェによって19世紀後半に発案され、以来彼の地での流行~定着をみた「アジャンダ(=優良顧客向けに用意された暦 兼 家計簿 兼 便利帳)」に範をとったものと推測します。この当時、資生堂には山名文夫が席を置いており、布装の表紙から裏表紙にかけて展開するイラスト、中面巻頭4ページを飾るカラー刷「表情美」の瀟洒なイラストと紙面構成などは、山名によるものでしょう。中面センター見開きには、“資生堂といえば?”もちろん“東京・銀座!”の街並み航空写真の上に資生堂商品をフォトモンタージュした4ページがあり、こちらもなかなかの出来栄えです。実をいえばこの冊子、すでに一冊在庫しているのですが、二冊の裏表紙を並べてみると…在庫分には「京都四条高倉 大丸」、今回落札した方には「伊勢崎町西町 星野小間物店」ときっちり刷りこまれています。有力な販売代理店にはおさおさ配慮怠りなく、いちいち名入れをして提供したということなのでしょうか、がしかし表紙の素材はこの場合紙ではなく布、しかも二色。コストは果たしていかほどか? 有力店とは一体全国に何店あったのか?? いや待てよ。相手に買わせれば問題解決ではないか???…ブランド・ビジネスというもの、いまもむかしも、実にタイヘンなことではあるようです。 ■あと少し、簡単なご案内など。/活版印刷の欧文活字(イタリック等数種・字種欠けあり)、算用数字、約モノ(記号符合等)が少々入荷、店頭に置きはじめました。文選箱、木箱なども少々あり。こちらは店でお声をおかけください。/“商品化途上”とお伝えした紙モノ、第一弾を引き出しの一番上に入れました。来週末までには第二弾も店頭でご紹介の予定です。/HP全体のリニューアル予定が大幅に遅れております。場合によっては6月頃になるやも知れず、不便な点等多々あろうかと存じますが、いましばらく現状のままお付き合い下さいますよう、何卒よろしくお願いいたします。/相変わらず美容関係の雑誌を探しております。誌名・年代・状態にもよりますが高価買い入れいたします。こちらもよろしくお願いいたします。/春眠暁を覚えず。早起きは三文の得。みなさまも寝坊にはご注意を。
■年が明けてから一体何をしてきたというのか、大した成果もないままに3月に突入するというのには愕然とします。とりあえず来週も火・木・土曜日の各日12時~20時で店を開けながら、5月・6月の外催事についてそろそろ考え始めねば。またこうして上半期が「あっ」という間に過ぎていくわけですね。やれやれ。 ■今月最後の入札会から、今週も新着品を上の画像とともに。三冊すべて庄野義信の著作、『死の書・1分冊』『死の書・2分冊』はいずれも昭和3年発行の非売品=私家版限定500部、『死の書 短篇小説集』は昭和8年、当書表紙の記載によれば「文芸雑誌“新人”創刊号・別冊附録」として発行されました。庄野義信の名前は海野弘他編による「モダン都市文学」シリーズの第三巻『都市の周縁』に「エマ子とその弟」がとられていることからご存知の方もいらっしゃると思いますが、国立国会図書館の収蔵書と、念のために「日本の古本屋」で見た限りでは、批評や論考、編者としての仕事を除き、創作作品は今回落札した三冊に収められた約20篇でほぼ全てなのではないかと推測しています。作品のなかから、「常識的に破滅した人々」は娼婦とロシア人との間に生まれた男の人生回顧、「恐ろしき顔」は一夜の遊びの結果に背筋を寒くする話、「フララの脚」はいまでいうところの脚フェチ(…といっては軽すぎる偏執狂ぶり)で身を滅ぼす男の話、「行方不明になった労働者」はプロ文風ながら何故か舞台はアメリカ、といった具合。どこかが少しずつ捩れているといった感を受けます。一方で「新宿の武蔵野館」だの「下北沢駅近くにある分離派風の女の住宅」、「丸ビル九階の××亭」だのと、パラパラめくっただけでも当時の“いかにも ”な道具立てが揃えられ…ううむ。これはなかなか面白そう。と思いたいのに現在無名。やはり駄作か?どうかは、読者になってやろうという奇特な方に委ねるとして、少なくとも「著者自装」とある装丁の仕事、とくに『短篇小説集』の洗練された線描などはなかなかのものだと思うのですがどうでしょう。
■他の落札品がこれまた手間のかかるものばかり - 調べが必要な洋書、落丁繰りをしないといけない作品集、おまけに芦屋の写真館撮影分を大量に含む…「芦屋」という一点で買ってしまった…戦前の写真が大きなダンボール1箱などなど-なので、今週はそうした “手間の途上”の様子の一端を画像でお届けいたします。白い和手拭に貼り付いたままの状態でスキャンした画像は、脈絡なく台紙に貼り付けられていた紙モノコレクションを脈絡のある商品にすべく、水に漬けて台紙からはがし、和手拭と新聞誌とに挟み、これをこまめに取り替えながら重石をかけてほぼ十日、「やっとここまで参りました。」の図。これだけ手間と時間をかけようと思う紙モノコレクションは最近めっきり少なくなってしまったのですが、この旧蔵者のセレクションには久しぶりに「おおおっ」と惹きつけられました。とくに化粧品のラベルやパッケージ、万年筆インクなどの文具関係やカルピスなど飲料のラベル、小さな封緘などに優れたデザインのものがたくさん含まれています。香港のホテルや日本郵船のバゲッジ・ラベルもちらほら。やちなみに画像上右の赤の帯紙は「プラトン・インク」、左真ん中の帯紙は「カルピス」、その右に並ぶ化粧品各社のラベル3点はパリの蚤の市で目にするものと遜色のないデザインです。こうして剥がしとった紙モノは今回総点数約120点。こちらは来週火曜日より整理のついたものから販売いたします。* 画像には傷やイタミのあるものも写っていますが、ここから剥がして販売する際には状態のよいものに限ります。 ■「雑書目録」だけでなく、時々、何だか突然覚醒したかのように画像付きの目録にもデータをアップしております。来週も数点ずつですが「BOOKS」「A LA CARTE」へのアップを準備中。こちらも併せてよろしくお願いいたします。
■咳はまだしも、クシャミはまだ少々肋骨に響きますが、このままいけばコルセットが外せそうな気がする来週も、店は火・木・土曜の各日12時~20時で営業いたします。肋骨骨折の後は…今年デビューとなった花粉症がオソロシイ。 ■今週の新着品、いつも通っている金曜日の「明治古典会」の分は店頭に出せるまで少し時間がかかりそう(落丁確認に紙モノ整理…)なので、先ずは月曜日に開催された「中央市会大市」の落札品から。タテ書きのタイトルがなければバウハウスの教科書か、はたまたモンドリアンもどきの作品かと見紛いそうな上の画像は、和田三造編纂による『配色総鑑』。布装のタトウに昭和8年から9年にかけて発行された経本仕立ての冊子6冊、付録2点、そして非売品の解説冊子が収められた揃い一組。二色、三色、四色の組み合わせによる配色を各々2冊で展開、提案されている配色を全部合わせると実に348パターンにのぼり、これ全て和田三造先生創案によるもの。また、色の部分は直刷りではなく、一色刷り(おそらく石版)の後に切り抜き、台紙に貼り付けたものであります。考えた人ももちろんですが、色を調整した人も切った人も貼り付けた人も、みなさん本当によくやった。と誉めてあげたくなる実に丁寧な仕事。人の頭と人の手とを使った仕事の密度の濃さ、失敗の許されない緊張感、そこに費やされたたくさんの時間。古いもの、実体のあるものから時に感じる「重み」というのは、こうした要素で構成されているのではないかと考えさせられます。色見本といえば即座に印刷用を思い浮かべるいまと違い、印刷界ではカラー刷がまだ主流ではなかった当時、色見本はファッションやディスプレイ・デザイン、インテリアやエクステリアなどに活用されたようです。私たちが見ることのできる当時のこうした風俗は、写真にせよ雑誌等のグラビアなどにせよ残念ながらほとんどが「モノクロの世界」に閉じ込められています。『色彩総鑑』は、当時日本人が身を置いていた風景に色を加えてくれる、ひとつの手掛かりといえるかも知れません。今週ご来店下さったお客様で、いつもHPをご覧くださっている方から、「見本帖を手に入れた時ってホンっトに嬉しそうですよね」とご指摘を受けました。云われてみると確かに。しかしよくよく考えてみると、小店が仕入れているものは品筋から予算の関係で買える範囲まで、全て自分本位以外の何ものでもなく……次の新着品なんぞ、もはやその極北といえそうで。
■板垣鷹穂著『優秀船の芸術社会学的分析』、昭和5年発行の初版本。この7年、一度は手にしなければと思いながら、決してまみえることのなかった本を、ようやく落手することができました。この間にももちろんチャンスはありました。他店さんの目録に二度、出ているのを見ていますし、私が行かなかった市場で少なくとも二度、出たと聞いています。しかも、相当無理をしないと買えないという額でもありません。私の、この眼前に、情報としてではなく「実体」として、出てくることがなかったのです。2001年のこと、日本における機械美の提唱者・板垣鷹穂を伴走者に据えて、私は20世紀初頭から戦前の都市と文化をテーマとする自店目録をつくりました。一年半をかけて板垣の主著を読み、板垣の視線を借りて本を集め、しかし板垣の著書のなかでも最も注目すべきこの本を、この目録に収めることはできませんでした。瑕疵多く、力不足を露呈するばかりの目録でしたが、なかでもこの一点は悔やまれてなりませんでした。以来、一度は必ず自らの手にしなければならないと思い続けてきた本です。このような場合、落札は自己満足でしかなく、付言さえもはや余計な気もしますが、古本屋らしい格好だけは整えておくと…本を構成するのはテキスト181Pと巻頭に置かれたグラビア82P。テキストは板垣の論考を中心に、グラビア撮影を担当した堀野正雄のレポート、秩父丸をスケッチした小山敬三の所感を収めています。巻頭グラビアは堀野正雄による写真を多数含んでおり、コロンブス号、浅間丸、秩父丸等それらの写真は、板垣の理想案に沿って堀野正雄が自ら“実験”と呼ぶ試行錯誤の末に撮影、さらに板垣によるトリミングを施して配置されたものです。つくづく、良い本だと思います。というのもまた自己満足であり。極北の地からあと一歩踏み出すと人は一体どうなるのでしょうか。地球からこぼれ落ちるとか。地球の角にぶつけて再び肋骨が折れるとか。 例え陸地があったとしても食べるものはないとか。……「アっああぁーー…」という声を残し、やがてそれさえフェイドアウトして。辺りに、そして私の上にも、静寂が訪れるのならばそれもまた良し。 ■雑書目録、今週アップしてみると、やはり新しいところから動く傾向があります。「雑書目録」は来週も人文・翻訳関係で引き続き残りをアップしていく予定、お見逃しなく!美容関係の探求書も引き続き探しております。もはや藁をも縋る思い。こちらも何卒よろしくお願いいたします。